第3話 ローレンシア講演会

 講演会当日は、雲一つない晴天で、ふわっとした暖かい空気が流れ、なんとなく心地がいい天気であった。

 講演会は毎日行われていて、今日の講演には、ジアースとミュウが参加するのである。

 今朝は、ミュウとジアースとサハリンは王宮の庭で体操をしていた。

ミュウ:ねえ。ジアース。緊張している?

ジアース:いや、ぜんぜん。

 ジアースはかなり図太い神経を持っていた。

ミュウ:ところで、今日の朝食はおいしかった?

ジアース:ああ。うまかったよ。だけど、王宮内でラーメンを食べるとは思わなかったよ。

ミュウ:そう?ラーメンは王宮では普通だけどね。ね、サハリン。

サハリン:ジアースは地球人だからしょうがないよ。

ミュウ:そうね。でも、とにかく、ジアースは今日は調子よさそうね。

ジアース:まあね。

 ジアースたちは体操が終わった後、講演会に出かける準備をし、玄関に用意されてある車二台に、それぞれ乗った。ジアースは前の自動車で、ミュウとサハリンは後の自動車である。

 後ろの座席に座っているジアースは、運転手に話しかけた。

ジアース:運転手さん。今のローレンシア王国に必要なものは何だと思います?

 運転手は答えた。

運転手:ジアース様。私のことはお忘れですか。

 ジアースは運転手を見た。

ジアース:あれ、カランではないか。

 運転手はジアースがエメラル星に来たときの宇宙船の操縦士をしていたカラン(男)であった。

カラン:そうですよ。忘れられては困ります。昨日までずっと宇宙船の中で過ごしたじゃあありませんか。運転手さんって呼ばないでくださいよ。

ジアース:それは、申し訳ない。ちょっと顔が見えなかったので。それはともかく、さっきの質問についてどう思う?

カラン:そうですね。ジアース様はこの国に来たばかりだから、まだわからないと思いますが、今のローレンシア王国は経済不況ですからね。景気対策をしたほうがいいですね。

ジアース:その景気対策の内容は?

カラン:対策ですか。それは私よりも、ジアース様のほうがよくおわかりなのではありませんか。

ジアース:それもそうだね。

 一方、ミュウとサハリンが乗っている車は、宇宙船のときのもう一人の女性の操縦士のドミーが運転しており、そこでミュウとサハリンはジアースのことについて話していた。

サハリン:ねえ。ミュウ様。今のジアースについてどう思う?

ミュウ:そうねえ。やっぱり前のジアースと少し違う気はするけど、けっこう好きよ。サハリンは?

サハリン:私に聞かないでよ。私はこの先の人生で、前のジアースが言っていた凄い人と結婚するんだから。

ミュウ:それもそうね。今のジアースを私と取り合いになったら大変だもんね。

サハリン:それを言わないでよ。前のジアースを私とミュウ様で取り合いになって大変だったんだからさあ。

ミュウ:ごめん。思い出しちゃったね。

サハリン:あ、ミュウ様、そろそろ会場に着くよ。

 講演会の会場はルーネ講堂で、王宮から車で十分ぐらいの所にあった。ルーネ講堂は、3万人が収容できるのだ。

 講演会の主題は、『第二のエメラル星、地球』で、先日ミュウたちが地球へ行ってきたことを、各講演者の立場で講演をするのである。

 式次第は次のとおりである。

・ 地球人の言葉による意思伝達能力 (ラバンバ 言語学博士)

・ 地球の経済と生活        (デバロ 経済学博士)

・ 地球の環境と地球人       (エコー 環境工学博士)

・ 地球人の生態、地球人とエメラル人(バイオロ 生物学博士)

・ 地球人の技術          (コンバット 機械・宇宙工学博士)

・ 地球人が考える生活の豊かさの先 (ミュウ ローレンシア王国王女)

・ 地球人哲学「価値論」      (ジアース ローレンシア王国王女方参謀)

・ 歌 平和の天使         (サハリン ミス・ローレンシア)

 講演会は、ジアースの司会の言葉で始まった。

ジアース:みなさん。こんにちは。今日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今回も内容がぎっしり詰まったものですので、楽しみながら聞いて下さい。

 まずはラバンバ言語学博士が講演を行った。「題名は地球人の言葉による意志伝達能力」

ラバンバ:私は地球にいっての感想ですが、地球は、我々のように文化が発展していた。と同時に、さまざまな言葉の種類があるのには驚きました。地球人の言葉による意志伝達能力はきわめて高い。存在するものには、必ず名前をつけるのである。ただ、複数の言語があるが地球人はその言語の全種類を使っているわけではない。だから、言葉の種類がちがければ、自分の意思は伝わらない。その点は不便だが、周りの知らない言語を使って、話すと、周りの人に話の内容をわからないで済むという利点がある。いずれにせよ、言葉には意味を持ち、言葉は意志伝達をするのには欠かせないのである。地球人も我々と同じだったという報告をさせてもらいます。

 次はデバロ経済学博士「地球の経済と生活」である。

デバロ:地球の生活は、我々と同じ、経済で成り立っていた。ただ、国によって経済力が違うのも我々の星とも似ていた。経済システムは消費社会構造である。消費するものに価値をつけ、値段がつくわけである。そして、生活の中で、購入したものは使われるのである。

経済の発展はどこから生まれるか。それは、商品が、消費者のニーズにこたえたものを生産されることである。まさに、経済は生活のために出来上がった金銭的思考である。

 では、諸費者はどうやって経済力を得るか。それは、我々と同じく、働くことである。働くことにより、収入を得て消費する。これが、地球の経済の流れである。これで、私の報告は終わらせていただきます。

 つぎはエコー環境学工学博士「地球の環境と地球人」である。

エコー:私が地球へ言って驚いたことは、我々の星と同じ生態系を持っていることであった。また、空気もほとんど同じで、技術も進んでいた。ただ、残念なことに、地球は環境が汚染されつつある。ゴミの再利用、産業廃棄物の減少が、地球にとっての課題でしょう。我々と似ています。地球は、環境が生活に影響を及ぼしてから環境対策が始まった。我々は、商品を作るときに、いかなる廃棄物が出るかを検討しながら、健康のために環境対策を行い汚染を未然に防ぐということが重要と考えました。コストはかかるが、環境破壊が起これば、住むことができなくなるのである。経済は、環境を優先したものでなくてはならないと感じました。これで、私の論文は終わりたいと思います。

次はバイオロ生物学博士「地球人の生態、地球人とエメラル人」である。

バイオロ:地球人の生態には、さまざまな社会構造がありました。さまざまな企業・団体・宗教といったグループが存在し、競争が激しい社会でした。また、細胞学的に言えば、地球人は、我々と同じたんぱく質などの有機物で構成されていました。地球人とエメラル人の大きな違いは、我々エメラル人のほうが、技術的に優れているということです。我々の社会には、すでにロボットが活躍中です。医療では、再生医療を取り入れています。宇宙へ旅立つこともできます。あらゆる点で、エメラル人は地球人を越えています。ガ、まだ未解明な部分があります。非常に興味深い星です。今後の研究に期待をしてください。

 次はコンバット機械・宇宙工学博士「地球人の技術」である。

コンバット:先ほど、バイオロ教授がおっしゃったとおり、我々エメラル人は、地球人を越えています。しかし、地球人には独特に知恵があります。エメラル星では思いつかない技術もあります。特に、IT産業は未開発ながらも、我々に近づいています。エネルギーも、石油時代から水素エネルギーへ転換する動きも見せています。地球人には未知なる力を秘めています。常に新しい技術を開発している姿は、我々と同じです。地球はいま、環境問題で苦しんでいますが、知恵でもって解決を図ろうとしています。微生物を利用した、汚水処理、資源のリサイクルなどです。だが、課題の多い星でもあります。それは、我々も同じです。地球は将来性のある星なので、これからも研究を続けたいと思います。


つぎは、ミュウの番になった。ミュウはこんなことを言っていた。

ミュウ:『地球人が考える、生活の豊かさを発表し、そこから私なりの結論を述べたいと思います。

生活の豊かさとは、衣・食・住という生活の中で生きているうえで必要なものを得る必要度と、満足という自分が生きている上でどれだけ満足できるかという満足度、この二種類がどれだけ満たされているかによって決まると思います。その二点は具体的には何をさしているのかを、これから説明します。

必要度とは何か。それは、暮らしの良さ、生活の質、という視野から見た、生活上で必要なものが、どれだけ自分の環境の中に含まれているかを表すものです。

暮らしの良さとは、安心感、充実感、達成感などを、自己が生活の中で、それらを得た状態をいいます。

安心感とは、自分が生活していくうえで、災害や、事件、健康面などから自分が心配せずにいられる心理状態です。安心感がある状態の人は、常に余裕とゆとりがあります。

充実感は、現在生活をしていく上で、自分がやりたいことに夢中になって行動している心理状態です。この心理状態は、自分をレベルアップさせようとする人が得られる感情です。

達成感は、自分がやるべきことを完成させ、結果が出た状態に得られる感情です。この心理状態は、最後まであきらめずに努力した人、自分に与えられた課題をやりきった人が得られる感情です。

生活の質とは、生活していくうえでの便利さと快適さのことであります。

便利さとは、効率の良さともいいますが、それは自動車や家具、電気器具などを使って、無駄な時間を省いたり、体に負担がかからないものを指します。

快適さとは、心身の健康のことで、心の健康とは一言で言えば、ストレスの溜まらない状態を指し、体の健康とは、自分の体が自分の思い通りに動くことです。

次に満足度は、心が満たされる状態で、先に述べた暮らしの良さと重なる点がありますが、異なる点は、暮らしの良さとは、生活上必要なことを除いた、余暇の時間をどう過ごすのかということになります。

つまり、満足度とは、一言で言えば、自由ということになります。では、自由とは何かといえば、広義にとらえると、自分がやりたいことをすることで、狭義にとらえると、人間社会の中での生活上の自由、つまり、自分と環境が相互作用している関係(お互いが影響しあっている関係)の中から、いかに環境を使って自分の思いのままに動くことをいいます。

 一応、心の豊かさを細かく分析し、説明したところで、心の豊かさとは何かといえば、今まで述べてきたものが、条件としてそろった状態であるといえます。

 では、このような豊かさをどう実現していけばよいのだろうか。これを実現するには、自分と他との関係とが密接に関係していることがわかってなければいけません。言い換えれば、自分と家族、自分と社会、自分と物、などと、自分と他のもの、つまり自分と環境は一体であるということです。

 例えば、生きていくうえで、空気がなければ生きていけない、生きていくには外界から食物を体内に取り込まなければならない、食物を食べるにはお金がいる、家を造るには資源と労働力がいる、生活用品も作る人・売る人が存在しなければ手に入れられない、自分が生きていくうえで、何か参考になるものが必要である、などです。

 これらから、豊かさを実現させるには、自分は他のものと一体であることを悟り、人間は他の環境をも大事にしていくという、自他主義の考えがあれば、豊かさは実現されると思います。皆さんも自他主義の考えで進んでゆきましょう。』

 会場が拍手で沸いた。

 次はジアースの番である。ジアースは地球の哲学の中で、価値論を採り上げた。

ジアース:『みなさんこんにちは。地球人の中の行動基準になっている哲学の中で、価値論というものがあり、それはすばらしいので、私なりにまとめたものを発表したいと思います。

 価値論とは、人が行動するのに、何を基準としているのか、何に価値をおいているのかを論じたものです。その基準は、他から学んだり、自分で考えて出た答えでありますが、その答えは、それぞれ個人の価値観が基準になっているといえます。

 では、価値観とは何でしょうか。言い換えれば、価値の基準になっているものは何でしょうか。それは、真、利、美、善の四つであるといえます。つまり、人はこの四つの価値のうち、四つを大切にする人もあれば、その中の一つだけを大切にする人もいるでしょう。しかし、この中の一つも大事にしないという人は誰一人として存在することはありえません。

 では、人の価値観である、真、利、美、善とは一体何でしょうか。それらをまず一つずつ述べたいと思います。

 真とは、真実つまり、現実に存在した結果のことです。物質でいえば、今あるものの結果が真実であり、人生で言えば、今生きている自分というものが今まで生きてきた結果が、真実になります。ですから、真実を追究することは、正確な情報を得ることになりますので、真実というものは価値観の一つとしてとらえられます。

 次に利とは、環境から得られる利益、または生きていくうえでの利益のことです。利益とは、物質や生物で言えば活動するためのエネルギーの獲得のことであり、人でいえば、自分の生活にプラスになるもの、つまり、幸福をもたらすものです。例を出せば、お金、物、友人、恋人、夫または妻、親、子供、愛情、宗教、個人が見につけた能力といったものです。この例は、大きく分けると三つに分けられます。まず、お金や物は生活を助けるものであり、友人、恋人、夫または妻、親、子供、宗教などは自分を助けてくれるものであり、個人の身につけた能力は自分で自分を助けるものであるとらえることができます。この三つは人にとって利の三大要素と言えます。この利の三大要素をまとめると、利とは、物が自分を助ける、他人が自分を助ける、自分が自分を助けるということになります。この要素が一つもない人間は存在することは不可能です。つまり、この利の三大要素というものは生きるうえでは必要な要素だといえます。よって、利益というものは価値観の一つとしてとらえることができます。

 このことからもわかるように、真と利という価値は生命にも存在する価値であるといえます。しかし、次の二つの美と善についての価値は、人間独特の価値観といえます。

 美とは、当たり前のようですが、美しさのことであります。これを大きく分けると、視覚的感覚でとらえた姿や形と、心情的感覚でとらえた信頼や愛というふうに分けられます。前者は美しいからこそ大切にしたい、後者は大切にしたいからこそ美しくしたい、ということが言えるので、美というものは価値観の一つとしてとらえることができるでしょう。

 最後に善ということですが、四つの価値観の中で、最も難しい価値観であるといえます。なぜなら、善というものに対しての人の認識があまりに多く、混乱している状態であるからです。それでは、善とは如何なるものか。これを論じるには、人間は何をしたいか、何を守りたいかということを見つめていけば答えが出ると思います。とにかく、現代の人が大切にしているものを上げてみると、正確な情報を得るための真実、自分が生きるに当たって利益になるもの、美しいものである。よって、大切なものというのは、真、利、美という三つの価値の要素から成り立つものであるといえます。つまり、善とは何かと先にズバリ結論を言うと、大切なものを大切にする、守るという行動であると言えます。つまり、善というのは人間が大切なもの、大切にしたいと思うものを守るという行動が基準になります。

 以上が地球人の価値観です。この価値観は、われわれエメラル人にも共通しています。これは、我々が我々を理解するのに大事な考え方なのではないかと思い、採り上げました。如何でしょうか。これにて私の発表は終了させていただきます。

 会場で拍手が起きた。ジアースは、前のジアースの代わりを十分果たした。

 最後に、サハリンが歌を歌った。歌の題名は『平和の天使』である。


         平和の天使    サハリン

 なぜ人は争うの 自分のため? それとも誰かのため?

 話してみたら みんな自分を守るのに必死なんだね

 私はわかってるよ 君が理解してほしいことを

 もっとお互い分かりあえればいいのにね


 だから素直に話そうよ

 話さなければ何も始まらない

 いがいと話し合ったら

 わだかまりは消えるかもね


 そしたら戦争もなくなるね

 そしたらもっと平和になるね


 だから 私はがんばるよ

 だから 君もがんばって



 みんな仲間になろうよ 一人で淋しがってないで

 なんで敵を作ろうとするの そんなに人の悪口が好きなの

 私はそんなの嫌いだよ だっていい事一つもないじゃん

 そんな事よりも 一緒に楽しく笑いあうほうがいいよ


 だから心を開こうよ

 開かなければ何も始まらない

 いがいと自分から開けば

 相手も開いてくれるかも


 そしたらみんな仲間だね

 そしたら世の中楽しいね

 だから私はがんばるよ

 だから君もがんばって



 もっとみんな優しくなろうよ

 そうすればみんな救われるかもよ

 今の時代 何かが足りないと

 誰もが思ってるけど

 それって愛情で解決つくと思うよ


 だからみんな愛情を

 もっと もっと増やそうよ

 いがいと愛を与えれば

 相手も愛をくれるかも


 そしたら みんな幸せね

 そしたら みんな仲良しね

 だから 私はがんばるよ

 だから 君もがんばって


 サハリンの歌が終わると会場の客が沸きに沸いた。サハリンはミス・ローレンシアであるため、国民的な人気者なのである。

 こうして、ローレンシア講演会は拍手の中で終わった。

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