3−5「補給活動・午後の部」

午後になると内部の攻防はより激しくなっていくように思われた。


相も変わらず外の覆いがしてあるビルは100人近くの人間が中に詰めかけているのが嘘のような静けさであり、対照的に無線の先では悲鳴や叫び声に続き、低い地鳴りにも似た太鼓の音や、不気味な笑い声、怪鳥のようなけたたましい叫び声がバーゲンセールのように騒々しく聞こえていた。


「うーん、救護班の報告だと、入ったうちの5分の1が重症または軽症。精神錯乱と完全に精神を乗っ取られたのが2名ずつか…まあ、例年もこんなものだし、いずれも建物外に出ていないから影響はないものとみて大丈夫そうね。」


(…だから、中で何が起きているんだよ)無線で周囲とやりとりしながら指示を出してくる主任に対し、僕も懸命に転送作業を続けてはいるが、なかなかどうして先ほどからタッチパネルの反応が悪くボタン一つ押すにも手こずってしまう。


「ほら、追加のシール」主任にそう言われてQRコードのシールを貼るも、すでにタブレットの裏側はシールで埋め尽くされており、もう少しで本体の地の色すらわからなくなってしまいそうな量になっていた。


「ここでケチっても何も良いことないからね。ほら、さっさと次の注文。」

…そうして、次に頼まれたマンドラゴラの根を送ろうとした時だ。


一瞬、画面にノイズが走ったかと思うと先ほどまで作業をしていたアイコン画面が突如として消失し、代わりにライブ映像のような画面へ切り替わる。


「え、故障?」


僕は慌ててタッチするも画面は切り替わらず、映像には部屋いっぱいに本棚ほどの高さの機械の箱が並んでおり、それらは何度も点滅したりジーという短い音を立てたりしていた。それを見て、なぜか僕はここが目の前にあるビル内のサーバールームだと直感し画面中央に真っ黒な人よりも明らかに背の高い影のようなものが浮かび上がってくると、それはこちらへと徐々に迫ってくるのが見え…


「はよ、手を離さんかい!」


主任が手刀で僕の腕を叩いたため、はずみでタブレットが地面に落ちる。

見れば、まだ電源の入った画面からは黒い影の手首と思しきものが見えていて、僕の顔をつかもうとしていたのか、2、3度握るような動作をした後、画面の中へと引っ込んでいった。


主任はその機会を見逃さず、持っていたありったけのシールをタブレット画面へとマシンガンのような音を立てて貼り付けていくが、同時に腰につけていた無線からシステム開発部長の泣きそうな声が流れてきた。


『あのー、なんだかこっちの品物や防御が手薄になってまして、そっちの中継車に異常は見られませんか?繰り返しまーす、防御及び管理システムの調子がおかしいです。このままだと今日中に作業が終わらなくなってしまいますので、すぐに異常を感じた方は中継車の方まで…』


途端にシールまみれになり、もはや身動き一つしてないタブレットを地面に捨て置くと主任は僕を伴って巨大なアンテナを持つ中継車の方へと駆け込んでいく。


「お前の仕業だったのかー!!」


そうして開けたドアの先には、床や椅子に倒れこんだ2人の男女の姿。そして、僕の顔をつかもうとした存在と同じであろう腕の影が中継車の防犯カメラのモニターの画面越しに1人の男性の顔を鷲掴みにし、掴まれた男性は白目をむいて痙攣しながら計器のレバーを全て下げて押さえ込んでいる様子が目に入った。

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