2−2「増えゆくマネキン」
「はい、はい。申し訳ありません。わかりました…」
簡易テントの端っこでペコペコ謝りながらスマホを切ったジェームズは、ツンとすました表情を取り繕うと僕らに言った。
「残念ながら、今回の件で撤去班の手が足りないことがわかった。ついては清掃班である君たちには申し訳ないことだが、撤去班の応援が駆けつけるまで、私と共に対象の撤去作業にあたってもらいたいと思う。」
壁から生えたマネキンを見つけ、速やかにジェームズと上に報告を行った主任はそこに、にっこり笑ってこう付け加える。
「ようは不始末で撤去しきれなかったマネキンがあるから、回収するのを手伝ってくれってことでしょ?ジェームズ、私たちに残業させてゴメンナサイは?」
「…残業代は通常の時間給に1割乗せだが?」
それに主任は首を振る。
「どうせ撤去班の分まで仕事するんでしょ?そうしたら3割乗せ。スマホの記録にも残るんだし報告書にその旨を記載しないと書類不備で突っ返されるわよ。」
「…悪かった。君たちにはこの件で危険が及ばないように考えておこう。」
「はい、言質とった。頼むわよジェームズ。」
「…」
そうして、防護服を着るジェームズはとても悲しそうな背中をしており、とても声をかけられる雰囲気ではない…にしても疑問が残る。ここひと月のあいだに気づいたことなのだが、現場に不備があった場合は連絡後に速やかに撤去班やジェームズのようなエージェントがやってきて、僕ら清掃班は蚊帳の外になることが多かったはずだ。なのに今回はなぜか僕ら清掃班も駆り出されようとしている。
(一体なぜか…?)そこに防護服姿でテントから出た主任が言った。
「今回は
そして主任は「ふふん」と笑い、何やら防護服の上にさらに木箱に入っていた服を着用しようとするジェームズに顔を向ける。
「あら、それ使うのにちゃんと上の許可はもらってる?」
「もちろんだ。」
そう言って上に被ったジェームズの服は土色の分厚い麻で出来た布ののようで、センス的にもそれを服と呼ぶべきか迷ってしまうほどにめちゃくちゃな織られ方をしたつぎ当てだらけのボロ布のように思えた。
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