2−3「地面からの引き出しもの」

「先にシールを渡しておくから俺が対象を引きずり出したら首元に貼ってくれ。同時に頚部と腕と足を折って動けないようにしておくのも忘れずにな。」


そう言って壁に貼られたものと同じQRコードの書かれたシールの束を渡し、スマートフォンを服の布でくるみながら操作するジェームズに「折った手足は、選別してまとめておく?」と尋ねる主任。


「…いや、選別せずに壁から離して積んでおいてくれ。先に地中にあるものを全部出してしまうことが先決だからな。ざっと見た感じ30体くらいか。」


そうして麻袋のような服を巻きつけたジェームズはスマートフォンの画面を見つめながら壁に手を当てたかと思うと、そのままズルリと壁の中へと入っていく。


「『乙の115番』通称、土遁布どとんぬの。とある県境の隠れ里と呼ばれた地域の土中から見つかった布なんだけど、当時、これに包まれていたミイラは一切腐ったり他の生物に喰われた跡がなかったの。」


主任はそう言うと古い木箱を取り上げて年号の書かれたフタ部分を見せる。


「この箱は、ミイラになった屋敷の主人の屋根裏に説明書の巻物と一緒に保存されててね、ここに天保3年って書いてあるのはそのためね。その後、研究が進んで地面に潜れるアーティファクトとして管理活用されているのだけれど…実は、屋敷の主人がどうして土中で死んでいたのか、原因がわかっていないのよね。」


そう言って、主任は箱を僕に寄こすとテントに戻すよう指示を出す。


その時、ドサっという音とともに、壁から一体のマネキンが地面に投げ出され、主任は素早くその首元にぺたりとシールを貼った。


「早めに置いてきて。さっき30体とか言っていたから、すぐにこの辺りにマネキンが溜まっていくはずよ。」


言われてすぐに僕は箱を戻しに行ったが、戻ってみるとすでに3、4体は地面の上に投げ出されている。


「すぐに首をもいで。胴体を抑えつけて関節の反対側に力を入れる。そうすれば手足も簡単に取れるはずだから。」


…しかし、これがなかなか根気のいる作業だった。


シールを貼ったそばからマネキンをバラして横に積む。単調ながらも続けていくとなかなか体力がいるもので、積んだマネキンが20体を越す頃には通路のあちこちにばらけたマネキンの山がたまり、僕も疲れが出てきたのかだんだんと動きが鈍ってきた。すると、その様子に主任も気づいたのかジェームズに伝えるため壁に向かって話しかける。


「ちょっと休憩を入れましょうか。ジェームズ、あと何体?」


すると、マネキンの出現と同時にジェームズが壁から顔を出した。


「多分、次で最後だ。応援も間もなく到着する予定なんだが…難しいか?」


それに主任は「もう」と頬を膨らませる。


「わかった。そいつにだけシールを貼ったら、ちょっと小菅くんを休ませて私が残りをするわ…彼、大分頑張ってバテちゃってるみたいだし。」


「ええ、体力がないなあ。」そうぼやきながら壁に戻るジェームズ。

そんなことを言われ、僕は何も言えずにうつむく。


すると、今度は間を置かずに僕の目の前にズルリとマネキンの頭部が出てきて、ジェームズの声がした。


『それ、そのまま壊しちゃっていいから。』


(あれ、シールは?)僕はそう思うも指示なのでマネキン人形に手を伸ばす。

そして首に触ろうとした瞬間、マネキン人形がくるりと顔をこちらに向けると、僕に向かって両の腕を伸ばしてきた…

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