1−2「ドア先の瞬時の攻防」

小菅始こすげはじめくん、31歳。御社の応募を見まして…はい、はいそうですか…」


電話を切るのは就職相談窓口に座る年配の男性で、仕事もあるのだろうが毎年のようにこの場所に戻ってくる僕を気の毒そうに見つめ返す。


「次の応募が10人以上も入ってるね。一応お願いしてみる?ダメ元で。」


僕はその言葉に首をふると、もうしばらく考えてみますと言って席を立った。


…就職氷河期は明けていない。


むしろ、歳を重ねるごとにますます難易度が上がっていく気がする。

この先、正社員にしてもフリーターにしても就職するのは難しいかもしれない。


自分の手をじっと見る。長い生命線は長生きできることの証明か。

いや、生きているのではなくダラダラと生かされている感じ。

無理やりにでも生かされている気がして、人生を苦しく感じる。


その気持ちは、一月後に運良く清掃員として就職した今も変わらない。

…きっとこの性格がいけないのだろう一年と経たずに辞めてしまうのは。


そんなことを思いながら、僕は顔を上げる。


目の前に死んだ目をした僕の姿が映っていた。

何に映っているのか…決まってる。


突然飛んできた鏡の破片。

清掃中のロッカーに巨大ながぶつかりはずみで飛んだ鏡の破片。


奥のドアがへしゃぎ、瞬時に2人の清掃員が跳ね飛ばされ、ドア付近にいた1人の頭部がなくなり、金切り声を上げる女性清掃員に長い触手のようなものを伸ばして襲いかかろうとする。そのに指導員が素早く清掃ボックスから自動式の小型拳銃を二丁取り出し続けざまに扉の向こうへと発砲する。


パンパンパンッ

連続で合計10発。


硝煙を上げる銃を持ちながら、指導員は頭を振る。


「何だ、まだいるじゃない。このエリアはエージェント…誰だっけ?後で報告書に誤りがあるって訂正してもらわないと。えっと、まともに動けそうなのは。」


指導員は周囲を見渡し、棒立ちになった僕を見つけやって来るなりこう言った。


「あ、ガラス刺さってるじゃない。いま取ってあげるから。」


そう言って、ずぶっと防護服の眉間あたりに刺さった10センチほどはある鏡のかけらを抜いてゆるゆるとそれを振る。


「よかったわね。それ、防弾チョッキとほぼ同じ強度を持っているから。普通だったら貫通して死んでいるレベルだからね。」


「あ…どうも。」


答える間もなく、指導員は腰につけたスマートフォンを取り出すと「あーあー」言ってからこう続けた。


「こちらコードネーム・ドグラ。清掃中に撤去前の処理物に襲われ1名死亡、2名重症、1名行動不能、1名は生存確認。一体はこちらが処理。至急、ここのエリア処理をしたエージェントと救護班を招集希望、こちらは撤収予定、以上。」


そうしてピッとスマホを切ると、指導員の女性は清掃ボックスを引き寄せ、未だ震えて動けない女性清掃員を無理やり起こして僕に寄越し、歩き始める。


「二人とも今日は得したわね。こういう場合はエージェント側と撤去班に責任があるから、清掃業務は半分以下になるのよね。」


嬉しそうな指導員の声。未だ震えの止まらない女性清掃員に肩を貸しつつ、僕は指導員に促されるまま、外へと向かうエレベーターに乗り込んだ…

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