レポート・6「某科学博物館跡地、清掃待機」

6−1「うららかな日の鼓笛隊」

「今日の清掃はストップ。上にちょっと報告するから車で待機しておいて。」


近くの公衆トイレから戻った主任は車の窓越しにそう言うとダッシュボードから1枚の絆創膏を取り出しスマートフォンを持って車から離れた。


一昨年に閉鎖となった科学博物館。


この道の坂をさらに上れば大型のアスレチックやイベントが行われる大きな広場に繋がるのだが、ゴールデンウィークが過ぎた5月後半の平日にもなるとこの辺りにあまり人気はなく山の近くでもあるためか外ではしきりにウグイスが鳴いており、春特有のうらうらとした陽気で車の中でまどろんでしまいそうになる。


主任はスマートフォンの向こうでしきりに何かを言っているようだが、なかなか通話は終わらないようで終わったかと思うとしばらくスマートフォンを見つめ、そのままイラついた様子でどこかへと行ってしまった。


車で待機しているように言われた以上、待っているしかない。

でも、こうも暖かいと眠ってしまいそうになる。


…気がつけば、どこからか軽快なテンポの音楽が流れてきた。

みれば、科学館の裏から動物の被り物をした楽団がやってくる。


イヌにネコにゾウにヤギにキツネ…お手製なのか統一された褐色の布で作られた被り物はところどころ大きな縫い目や継ぎはぎがあるものの、それを被った上で器用に太鼓を叩いたり笛を吹いたりしているので、その手の仮装かと考える。


(次のイベントの予行演習なのかな…?)


おそらく次の土日辺りに広場で演奏でもするのだろう。


僕はフワワっとあくびをして、眠気覚ましにドリンクホルダーに置いていた未開封の2つのお茶のうち1つを手に取る。


そして、ボトルの蓋を開けて中身を飲もうとしたとき…僕はその手を止めた。


車の前に先ほどの動物たちが並んでいた。

イヌにネコにヤギ、なぜか彼らは演奏もせず直立不動で車をじっと見つめている。


「?」


その瞬間、僕の座っている助手席側のドアがガチャリと言った。

みれば、ゾウの被り物をした人間が助手席のドアを開けている。


「え?」


その時、肩にポンと手が置かれ運転席側に回っていたキツネの被り物をした人間が僕の首にスタンガンを押し当てる。そのあまりの痛みに僕の視界は一瞬にして真っ暗になってしまった…

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