レポート・8「社内倉庫、清掃日誌」

8−1「休日の清掃日誌チェック・1」

7月初め。僕は初めて会社から出た1週間の特別休暇を味わっていた。


「これって盆休みとは別でね、小菅くんは2月に社有ビルの大掃除の手伝いをしたでしょう。あれが試用期間中の特別ボーナス扱いで有給としてもらえた感じね。もちろん本来のボーナスも一緒にもらえるし、ゆるゆる勉強でもしながら過ごしてね。」


というわけで僕はジェームズと夕食の最中、主任に勉強するように言われていた社用のスマートフォン内に入っているという清掃日誌をぽちぽちと探っていた。


これは、月数回にわたって社内で管理している倉庫を清掃した日の記録であり、清掃が終わった休憩時間にお互いに内容の齟齬がなかったか確認しあいながら書いていった日誌でもあったのだが…


「まあ、倉庫内の清掃も当番制で巡回もするからな。セキュリティレベルが高いものは倉庫自体を高レベルのエージェントや科学研究部門が管理し、お抱えの撤去班が清掃に当たるが、そこそこマシな甲乙レベルのものだったら清掃班が清掃する…ところで、本当に今まで日誌を読んだことがなかったのか?半年以上も経ってるのに?」


ジェームズがニョッキをフォークで刺しながら(信じられない)といった目で僕を見る。僕はそれに目をそらす。


何しろ、主任は「上に報告して問題なきゃ、それでいいから」という理由で読み返す必要なんてなしと言っていたし、専用アプリを開く際にも主任やジェームズのようなエージェントのアカウントが必要だということで、それまで放っておくしかなかったのだ。


「…まあな、でも主任に勉強するように言われているからにはもちろんアカウントとパスコードを聞いているよな?で。俺に聞くぐらいだからついでに操作方法を教えて欲しいということか…」


(ごもっともです。)僕はジェームズの淹れてくれた冷たい氷入りのオレンジティーに口をつける…全く、未だにこの手の機械の操作にはついていけない。


するとジェームズはため息をつき、部屋を見渡した。


「いい加減、小菅も自分のスマートフォンやパソコンを持ったらどうだ?部屋の家具だってベッドぐらいしかないじゃないか。情報は寮の食堂のテレビや図書館の新聞で入手すれば良いとかそういう甘いことばかり考えていちゃあダメだぞ。せっかくボーナスも支給されるのだから、もっと向上心を持って…」


そう小言を言いつつも、皿などを綺麗に片付けジェームズは部屋を出て行く。


彼が帰った後、僕はベッドの上にゴロンと横になるとスマートフォンをぽちぽちと動かし、主任に言われたように書き始めた当初からの日誌を読み始めることにした。


『12月11日、場所:第76番倉庫(通称、山小屋)温度15℃ 湿度25%

 8:30〜16:00まで、途中3回の休憩を挟んで清掃終了。

 防護服着用の上、1Fのロッカー上の天井からすす払いを開始。電球交換及び、

 壁、ロッカーの外側、床を専用の清掃用具で清掃。異常はなし。』


『12月12日、場所:第76番倉庫(通称、山小屋)温度11℃ 湿度25%

 8:30〜16:00まで、途中3回の休憩を挟んで清掃完了。

 防護服着用の上、地下ロッカー清掃時に部屋に大量の文字が浮かび取れなくな

 る事案が発生。清掃班主任による電話連絡の結果、エージェント・ジェームズ

 が床面に仏像を置いたところ文字は全て仏像に収まり、清掃終了となる。』


(そんなこともあったなあ…)僕は当時のジェームズの憮然とした顔を思い出しくすくすと笑い、時間も時間なので残りは明日読むことにした。

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