1−5「死と指摘」

…それから数時間後、社員寮のベランダで洗濯物を取り込んでいた僕は、寮へとやってくる数人の社員の姿をぼんやりと見つめていた。数えて5人の彼らはつい今しがた説明会を終えたのか、どこか安堵した表情で手に資料を持ち社員寮へと向かってくる。だが、その中の数人の顔を見て僕は「?」と感じた。


一人は、あれほど取り乱していた女性清掃員の小岩井さん。もう一人は、確か壁に叩きつけられた名前も覚えていない青年、そして、もう一人は…


と、そこまで考えたところで洗濯物の取り込みが終わったので僕は部屋の中へと戻り、ついで、ポケットに入れていた社員用のスマートフォンがコールしていたので画面をタップし主任からのメッセージを読む。


『お疲れ様。明日は会社の前に定時集合です。今日の後始末をジェームズ(笑)が責任を取る形で撤去班と合同で行うことになりました。今日と同じくらいの時間に仕事は終わると思います(やったね!)他の5人については記憶処理と経過観察があるので、もう暫く社員寮で過ごすと思いますが、見つけてもあまり話を聞いたりしないようにしてください、何しろ…』


(首の接合がまだ完全に済んでいない人が1名いるので。)僕はその文章を読むと、改めてベランダから外を歩く5人をじっと見る。


そう、真ん中を歩く一人の青年。

服の襟に隠れるようにして彼の首にぐるりと縫い合わせたような跡があった。


彼は確かに数時間前に僕の目の前で何者かによって首を食いちぎられたはずだ…なのに、いまも平然と仲間とともに歩いて喋っている。


僕は、主任にこのことを確認しようかとスマートフォンを開き、そして閉じる。


(…だって君、ここを辞める気は毛頭ないでしょう。)


帰り際に言われた主任の言葉。


(こっちとしては君のような人間を募集していたし、願ったり叶ったりなんだよね…何しろ、君を一目見て気づいたわ。)


薄く目を開けながらも決して笑っていない主任の瞳。


(いつだって死にたがっているでしょ…人生から。)


言われて初めて気づく、的を射た言葉。

僕の生き方そのものを指摘されたような言葉。


(ここで働いていれば、きっとチャンスは巡ってくるはずよ?)


「…死の機会を、か。」


僕は暗いスマートフォンの画面を見つめながら、いつしかそんな言葉をつぶやいていた。

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