レポート・4「某小学校旧校舎、廊下拭き」
4−1「主任からの依頼メール」
『小菅くんへ、明日中に小学校旧校舎の清掃作業をお願いします。私は行けませんがジェームズに運転してもらって上階からの拭き掃除を一人でして下さい。』
3月恒例の3日間の海外研修に行っているはずの主任。
その主任から、このような内容のメールが来たので僕はいささか面喰らった。
…仕事を始めてから4ヶ月。普段は2人1組が基本だと言っていた主任が、ここに来て初めて単独で清掃活動をするように言ってきたのだ。
(多分、主任が言うからには大丈夫なんだろう。この2日間は暇だったし。)
研修期間中、ペアの僕には余暇が設けられていた。ジェームズ曰く「このような日にはジムに行ったり資料庫で本社の歴史について学んだりする」と良いそうだが主任は「ダラダラ過ごせよ若者〜」とのんきなことを言っていて僕はとりあえず中間をとり寮の畳に大の字になって天井を見つめたり図書館で最近の新聞記事を読んだり本を借りたりして、程よく手に入れた連休を満喫していた。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ!もっと真面目に生きていかないと。」
そう叫ぶのは僕を助手席に乗せたジェームズで、彼は出勤途中の僕を見つけるとメールの内容を確認し、会社の車で依頼の場所まで連れて行ってくれた。
社用の大型バンはエージェントでも撤去班でも同じ型を使うそうで、後部座席には清掃班と同じようなモップや掃除機と言った用具一式が詰め込まれている。
なぜ清掃用具も詰め込まれているのかジェームズに問うと手元の地図をチラチラ見ながら「もし、清掃班で不意の事故があった時には全部こちらの責任になる。そのため、後始末の道具を積んでおくことは当然だ」とのことだった。
「今日の俺は職場復帰した先輩とともにこれからエージェント活動を行う。上がいないからといってダラけた態度を取っていてはあっという間に堕ちた人間になってしまうぞ、程よい刺激と程よい仕事を行うべきだ。」
そう言いながらも4階建ての鉄筋コンクリートの旧校舎に着くと、ジェームズは一緒にロッカー型の清掃ボックスを運んでくれた。聞けば、僕の話を聞いて集合時間よりも少し早めに移動してくれたようで、彼の先輩も遅刻魔なので多少の遅れが出ても問題ないという話であった。
「…うーん、君の主任は大分大変な仕事を任せてきたな。」
車にあった清掃ボックスはエージェント仕様の簡易型で、普段使うものの半分の大きさではあったものの中に替えのモップや洗剤が入っているためエレベーターも付いていない校舎内では重量級のロッカーの移動は難航し、男二人でも階段を4階分あがるのにかなりキツい思いをした。
「終わったら俺のスマホに連絡をくれ。先輩に手伝ってもらえば階段も少しは楽だろう。退院から随分と経っているだろうし、体調面も問題ないだろうから快く引き受けてくれるはずだ。」
額に浮かんだ汗を手の甲でぬぐいながらも後ろのコードを引っ張り出して校舎の電源に繋いでくれるジェームズ。
「この機械は動き出すまでに時間がかかる。車からモップの機械を持って来るなら1人で大丈夫だろう?俺も現地で集合の先輩とそろそろ合流しなければならないから、手短に操作方法と注意点を教えておくぞ。」
そして、階段を下りながらもジェームズから丁寧に清掃ボックスとスマートフォンの連携方法を教えてもらい、僕らは一旦校舎の外へと出た。
「…にしても、主任も不思議なことを言うな。俺にも似た様なメールは来たが、ここは俺たちの調査対象と少し離れた位置にはあるし大丈夫だとは思うが、調査前に清掃をするなんて初めてのことじゃないか?」
僕にモップを寄越しながらも首をかしげるジェームズだったが、スマホを見ると「いかん。間もなく集合時間15分前になってしまう、事前時間ではそこまであと10分の距離だったはずだ」と慌てた様子で車に乗り込む。
だが、すぐに「ん…?」と首をかしげるとダッシュボードから布を出した。
「…これは、近所の子供の仕業か?」
みれば、車の後部ガラスに小さな子供の手形が二つほど付いている。
ジェームズは「ま、新学期前だしな」と言いつつそれを拭き取ると校舎を見た。
「そういえば学校の鍵も開いていたな。下手をすると子供が入り込んでいる可能性もある。もし見かけたら、この辺りに妙な生き物が出没するから注意して家に帰るようにと促しておいてくれ。」
(…妙な生き物?)しかし、それを聞くよりも先にジェームズは車のエンジンをかけるとモップを持った僕を置いたまま、上り坂を走り去って行ってしまった。
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