4−5「擬態」

廊下の向こうから何かに追われて逃げ惑う子供達。

彼らは教室の中へと避難し、僕は渡り廊下から彼らを助けに駆けていく。


その時、奇妙な音を聞いた。


ズシャンッ ズシャンッ ズシャンッ 

重量感のある、何かを引っ掻くような音。


(何だ、何の音だ?)その答えはすぐに来た。


「あああ!」「イヤァ!」


渡り廊下の先にぬっと姿を現したのは巨大な石の獅子の姿。

廊下いっぱいに広がる巨大な石像の狛犬が、床に白い爪痕を残しながら、子供達を教室の中へと追いやっている。


『やめてよお』『来ないでよお』『アッチニ行けヨー!』


その時、僕のスマートフォンが振動し、手に取るとそこには主任が送ったメールが大量に届いていた。


『早く』『アレをどカせ』『今すグ』『早ク』『スグ』


(…なんだ、何なんだ?)

困惑する僕の肩を誰かが叩く。


「おい、早くここから逃げるぞ。」


それはジェームズで、彼は僕の掴んでいるモップを見て大きく頷いた。


「よし、ちゃんと言われた通りモップは持っているな。それは、を寄せ付けないような構造になっているからな…このまま外へと出て行くぞ。」


ジェームズの言葉に僕は慌てる。


「待てよ、子供が中にいるじゃないか。あの子たちを…」


そして、教室の方を向いた僕は固まった。


教室に逃げ込んだ子供達の顔が崩れていく。あれほど個性のあった子供達の顔が次々と目と口の開いただけの人の形をした塊へと変貌し、教室も廊下も年月が経ったかのように暗く汚れたものへと変化していく。


唯一変わらないのは巨大な狛犬。

狛犬は校舎の中のうごめく塊を威嚇するかのようにジッと睨んでいる。


「行くぞ、この校舎の化け物を狛犬が今まで封じ込めてくれていたんだ。」


ジェームズはそのまま階段を駆け下り、清掃ボックスものそのままに僕を校舎の外へと連れ出すと、先ほど見た車種の違う車の後部座席に僕を押し込めた。


「マープル、このまま出してくれ。」助手席に乗り込むジェームズ。

「OK!」運転席のマスクマンはアクセルをふかし旧校舎が離れていく。


「…危なかったわねえ、君もジェームズのせいでひどい目にあったんだって。」


しばらく走るとマープルと呼ばれたマスクマンの言葉に僕は首をかしげる。

すると、ジェームズが「悪かったよ」と言って車の中からハザードマークの付いた金庫のような箱を出してきた。


「悪いが、君の持っているスマートフォンをこの中に入れてくれ。多分、俺のせいでが進んでいるはずだから。」


僕はその意味がわからずもとりあえず言われた通りにポケットの中から社用のスマートフォンを取り出す。すると箱の中には先客と思しき1台のスマートフォンが入っており、なぜかその画面には先ほどの校舎の様子…子供達が窓に並んでこちらを見ている映像が流れていた。


「早く入れるんだ、ずっと見ていてもいいことなんてないぞ!」


ジェームズの言葉にハッと気がつき、僕は社用のスマホをボックスの中に入れると主任のメールで埋め尽くされていたスマートフォンの画面は隣のスマホと連動し、赤黒い塊の一部となった子供達が校舎の窓から笑っている姿へと変化した。


「よし、封印。会社に戻ったら新しい物を支給してもらうから問題はないぞ。」


ガシャンと閉められる箱。

冷や汗の止まらない僕はジェームズとマープルの顔を見比べる。


「…大分顔が青いわねえ。街まで行ったら少しカフェで休憩しましょう。」

「その方がいいな、説明もそこでしよう。」


人気のない村の横を通る車。そして、僕とジェームズとマスクマンを乗せた車はどこまでも続くような坂道をひたすら下りていった…

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