7−2「水没した棚」

走り出して10分もしないうちに背後のドアが閉じてしまう。


通路には照明がないため明かりは左右の部屋から漏れる薄ぼんやりとした青い光と清掃車のヘッドライトの照明しかない。通路横に繋がる部屋は貯水槽になっているらしく、ちらりと下を覗くと底がわからないほど水がたまって見えた。


「部屋の中は水を溜めたままにしているから通路だけの清掃になるわ。ところどころ曲がり道があるから注意していきましょう。」


ハンドルを握るのは僕であり、主任はその横でスマートフォンを見ながら「右」とか「そこ左」とか指示を出す。


清掃車は下部の噴射器から水を出し、周りについているブラシが高速で回ることで汚れを落とすのだが、こうも暗いと本当に汚れが落とせているのか運転をしている僕では確認のしようがなかった。


「大丈夫よ。狭い通路いっぱいに清掃車を動かしているんだから。壁ギリギリまでブラシも動いているんだし、君はハンドル操作だけを間違えないようにしていればいいの。」


(…へいへい)と思いつつ、主任に言われた通り直線距離をひた走る。


そこで気づいたことなのだが、どうやら左右の部屋から漏れる青い光は水の中から発しているもののようで、ふと見た部屋には水中に沈んだ大量の棚が光によって下から照らされ、中には古めかしい缶や水でふやけないか心配になるような紙箱の商品など理解に苦しむものが多数、水中に没していた。


「そこ、左。」


その声に慌ててハンドルを切ると主任が言った。


「ああ、伝えるのを忘れていたけれど、ここは名目上『貯水施設』だからね。」


次に見えた部屋は、やはり先ほどと同じく無数の棚の並ぶ場所であったが、今度は動物の剥製や人体の1部と思しき目玉や舌などの瓶詰めが並んで見えた。


「この場所で何が行われているのか何を目的としているのか。知っているのはショッピングモールを経営する企業のCEOとうちの会社の最高幹部だけなの。外に出ても他言しないように契約書も交わしているし、あんまり詮索はしないほうが身のためみたいね。」


くすくすと笑う主任にだんだんと気が滅入ってくる僕。

低速で走る清掃車はどこへ向かっていくのか。


僕は主任の指示に従いつつ、次の角を左に曲がるためハンドルを切った…

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