第29・75話 貝坂美幸②

「は????」


茜色に染まる帰り道の中

私は、呆けた声を自然と漏らした。


「ごめん…。

 夏目さん…

 もう一度、言ってくれない?」


聞き間違いの可能性も有る…。

そう思って、再度私は夏目さんに

問いかける。


すると、彼女は肩をピクピクと震わせ

私の顔を直視してこう言ってきた。


「も、も、もう言いません!!

 う、うぅ……。

 貝坂さんの意地悪……」


「ちょ、ちょっとそんな拗ねないでよ。

 景谷が気になっ……」


「も、もう知りませーーーん」


真っ赤に顔を染め上げ、

碧眼に今にも

こぼれ落ちそうな

涙を溜め込んでいた

夏目さんは、

そう言い、そっぽを向いて

走り去って行った。


「あっ、ちょっ…」


どんどん小さくなっていく

夏目さんの背中を見つめ

私は「はぁ」とため息をつく。


あんな表情浮かべてたら……

もう、否定の仕様がないじゃない…。


夏目さんの気になってる男子…

それは、間違いなく景谷だ…。


「景谷……

 あんな、陰キャのどこがいいのよ…。」


私は、ボソッとそう一人で呟き

天を仰いだ。


景谷…

あんた最近、

美少女に(玲と夏目さんと神室さん)

多少、気にかけられてるからって調子にのるなよ?


この場にいない

スクールカースト最底辺の

男に向けて私は心の中でそう言い釘を刺す。


気の迷いなんだから…

気の迷い…。


あんな陰キャがモテて私が

モテないなんてあり得る訳ないんだから。


下唇を強く噛み締め、

私は、自分にそう言い聞かせ

一人帰路を辿った。


♦︎♢♦︎


ピンポーン、ピンポーン


ドンドンドンドンドン


はっ。

そうじゃん…。

しまった………。


私は自分の失態に気づき

嘆息をもらした。


あれから、歩いて数分後に

家についたはいいものの、

私は

今日親が夜遅くまで帰ってこない

事をすっかり忘れてしまっていたのだ。


そうじゃん。

確か、高校時代の友達とご飯食べにいくから

一人で適当に食べて…って

ママ、言ってたじゃん。


おまけに、鍵…

自分の部屋に置いてきちゃった…。


私んとこは、母子家庭だ。

一人っ子ということもあって

この状況だと

夜遅くまで、家に入れない。


何やってんだろ…私。

今の所持金は8000円とちょっと。

どこかで時間潰さなきゃね。


とりあえず、

シャークスバーズにでも行って

時間潰すか…。


頭をポリポリと掻きながら

私は重い足取りの中

大きなデパートへと向かった。


♦︎♢♦︎


歩いて約20分くらいで

シャークスバーズが見えてきた。


時刻は19時にさしかかろうとしている

18時58分。


一人で時間潰しってのも

退屈…。


そう思った私は、

親友である

結女をシャークスバーズに

来るよう誘ってみることにした。


別に緊急時じゃないから…

メールでいいわね。


ポチポチポチと信号待ち時間が

訪れるたびに私は手際よく指で

スマホをタップする。


『シャークスバーズに

 向かってるんだけど、暇だから

 結女、来てくれない?』


軽く誘いの文を作り

私は、そう結女に送信する。


ふぅ…。

もう着くわね。


ここらじゃ名の知れた

大きなデパートのあちらこちらで

見られる灯に目を向け、私は歩みを進める。


ふふっ。

結女来ないかなぁ…。


人が賑わう店内に入ると

私は、いつの間にかテンションが上がっていた。


♦︎♢♦︎


あれ??何この一際目立ってる存在感のある人は…。


デパート内をうろちょろしていると

私は、数多あまたの好奇的視線を

向けられている人に気づいた。


それも、主に女子から……。


これは、イケメンの香りだ…。


そう思った私は、後方から前方へと駆け込みイケメンの香りがプンプンする人の顔を

遠くから拝んでみることにした。


「えっ?」

出てきた感想は衝撃…ただ、それだけだった。


ワックスでナチュラルに活かされた髪に

凛とした顔立ち。

そして、

くっきりとしたパチクリ二重の目を

見て私はほんの数秒、唖然とした。


何このイケメン超タイプなんですけど…。


それも、身なりを見るに

私と同じ学校の生徒だった。


同学年で見たことないから

おそらく先輩だろう。


これは、運命に違いないわ…。


面食いの肉食系女子の私は

舌をペロリと出し口周りを舐める。


ふふっ

話しかけないって手はないじゃない…。


それから、私は彼に話しかける

タイミングを見計らうため

バレないようあとをつけることにした。


♦︎♢♦︎


『ごめん。

 美幸ちょっと行けそうにない』


彼の尾行をこっそりとしていると

結女から連絡が入った。


「いいよ。気にしないで」とそう返信し

 私は、彼の後ろ姿を追いかける。



ーーーーー数分後


 あれ??シャークスバーズ出るの?

 

買い物をしていたはずの彼は

品物を次々と元あった位置へと戻し

しまいには、買い物カゴさえも戻してしまった。


そして、

スーパーを出ると

彼は、歩みを進め

出口へと向かっていた。


どこ行くんだろう?

まぁ、外でてくれたほうが

こちらとしても都合がいいわ。


私は彼を見失わないよう

ひっそりと彼の尾行を続けた。


♦︎♢♦︎


「え?ここ?」


歩くこと数分。

私は、どうしても

戸惑いを隠せなかった。

イケメン男子が入っていった店。

それが、オンボロの小さな

ラーメン屋だったからだ。


「げっ。こんな人いなさそうな

 とこ良く入れるんだ。

 私だったら、絶対無理…。」


自分の胸に手を置き

私は、ゴクリと固唾を飲む。


その後

「スゥーハースゥーハー」と

大きな深呼吸を2度繰り返し

私は意を決して、オンボロラーメン屋の

戸を開いた。


「いらっしゃいー!!!!」

店主からの大きな声がかかる。


私は、顔を少し引きつらせ

遠慮がちに頷く。


すると、その直後に

「えっ、か、貝坂…」という声が聞こえた。


何、私の知り合いでもいるの??

そう思って、声主の方へと目を向ける。


すると、そこにいたのは

先程のイケメン男子だった。

 

イケメン男子は、私と目が合うと

すっと、目を逸らした。


なによ…これ。

私のこと知ってるっぽい。

超私の理想的な展開なんですけど!!!


そう思うと

緊張がほぐれ、

頬が緩んだので

私は、彼に向けて甘ったるい声でこう言った。


「へぇー。私の事、知ってるんだぁ❤️

 隣いいかしら?」と。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『あとがき』


 次回から景谷守視点です。

 頑張って執筆します!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る