第13・5話 不幸な"陰キャぼっち"(改稿)

(グーグーグー)


 やばい、やばい、やばい。


 よりによって、何で鬼担任の英語の時間なんかに!! ただいま4時間目の授業中。腹が鳴りまくって俺は冷や汗をかいていた。そういや、飯食ってなかったよな。


 今朝は、はぁ。今まで、極度の緊張感があったから腹は鳴らなかったが今は壁との取引や転入生に意識が向いていることもあって、赤城グループを筆頭とする男子や女子からの非難や暴力(ないと信じたいが…)の気負いが和らいだのでその緊張感はほぼなくなっていた。


だから、腹が鳴り始めたのだろう。こんなにも。


(グググ、グーーーーー)


 まずいぞ。非常にまずいっていうか、恥ずかしい。


「いいかぁ!! お前らぁ!! 接続詞のasの訳し方は5つだ!! これはなぁ!!大学入試受ける際には絶対になぁ! 覚えとかなきゃならん!」


 ほっ。先生が大きな声で話し出した時は、安心感が凄い。


 そう思っていると、隣の席の今クラスに絶賛人気中の転入生、夏目優奈に小声で話しかけられた。


「あ、あのー。景谷くん! こ、これあげます!!」


 彼女がそう言いつつ俺に渡してきたのは食パンだった。先生の様子を伺いつつ、俺に食パンを渡してきたのだ。


 この子、度胸あるんだなぁ。見かけによらず。確信したが、この子絶対に天然タイプだな。俺の一番苦手なタイプだ、はぁ。


 それと、食パン欲しいなんて言った覚えないぞ俺は。


「ごめん、いらない」


 そう言い、俺は食パンを転入生の方へ返す。


「さっきから、グーグーグーグー聞こえてるんですよ! だから、食べてください!!」


「うっ。だけど、今授業中だから……」


「いいから!! 食べてくださいよ! 私の自家製パンが不味いとはいわせません

 から〜!!!」


 おい、ちょっ。声でかいよ、抑えようよ。どんどん声がでかくなってるじゃん……転入生の方だけ。やばいって。なんか、席近くの人がチラチラ見てるから。


「おい! 景谷ぃ! 何!! 授業中にパンを食おうとしてるんだぁ? いい度胸してんだなぁ!」


 いや、食おうとしてないんだけど。返そうとしたら突き返されたんだけど。

 鬼担任に見つかり何故か俺だけ叱られる羽目になっていた。


 何でだよ、ホント俺が何したよ。


「景谷ぃ! 後で職員室へ来い! それから、一応転入生の夏目もな!」


 一応ってなんだ!一応って!! 抗議したい気持ちでヤマヤマだったが

できるわけないので、返事だけした。


「はい」

「はぃぃ!」


(キーンコーンカーコーン、キーンコーンカーンコーン)


 俺と転入生の夏目の返事が終わると同時に、チャイムが鳴り響いた。


 ちなみにクラスメイトの反応だが、赤城達もそうだがほとんどの人達が嘲笑していた、俺だけに……。転入生の方には、鬼担任の呼び出しを食らったことに

心配そうな視線を向けていた。


ね、ねぇ? ちょっと待遇が違いすぎないか? まぁ、今更か。


昼休みに入り、皆が食事をしていく中で俺と転入生は、職員室の方へ歩き出す。

 

「待ってるから! 早く帰ってきてね。優奈ちゃん弁当一緒に食べよう」


と転入生は声をかけられていた。俺は、言わなくてもいいだろ??


職員室へ向かっている途中、転入生は、


「ごめんなさい……私が声を荒げたばっかりに」


と謝罪をしてきた。


 凄いテンションの落差だな、本当に反省しているのだろう。気持ちがよーく伝わってきた。


 そんな姿を見てしまうと、文句言おうにも言えない……。


「いや、、もういいよ」


と言うと


「いいえ! そういう訳にはいきません。何か一つ私に何なりと言ってください。

 私に出来ることなら何でもしますから!」


と何故かドヤ顔で言ってきた。


なんでもするだって? なら、俺が今欲っする物でも要求させてもらおうか。


「食パンを。食パンが食べたい……」


 ホントは、嘘だ。食パンはあまり好きじゃない。俺が今一番欲する物は食料だ

けどこの子絶対に食料、食パンしか持ってない!! 何故かそういう勘がした。


 だから、彼女の食料である食パンを恵んでもらうことにしたのだ。

 俺の望みを聞くと、転入生は頬を赤く染め、そ、そうですか……と言って体をもじもじとさせていた。何だ? 別に変なこと言ってないだろ……。


「……………」

「……………」


そこからは、ずっと沈黙状態が続いた。そのまま職員室につき、

  

(ガラガラガラガラガラ)


 年季の入った扉を開ける。


「失礼します………」

「失礼します」


俺たち二人は挨拶をし、中に入り担任の席へと向かった。


あれ?? いないぞ。来い! とか言っときながら、本人不在ってどうゆうことだよ。担任の席には、A4サイズのプリントが一枚、机に置いてあっただけであとは至って何もなかった。


 俺たち二人の方を確認し、担任の隣の席に座っていた名前の知らない先生が、声をかけてきた。


「えっとー。景谷くんと夏目さんかな?」


「「はい」」


「わかった。えー、英華先生から、渡し物があるらしいから。まず、景谷くん」


 俺に渡してきたのは、担任の机の上に置かれていた一枚のA4の紙だった。とりあえず、受け取り制服ポケットの中に突っ込む。


 そして、夏目優奈の方は転入手続きの詳細とかかれた封筒を渡されていた。


 なんだよ、授業と一切関係ないじゃん。


「はい。これで君たちは自教室に戻って大丈夫だよ。今、英華先生はタバコ吸いに行ってるから」


「「わかりました」」


 俺たち二人はそう言って、職員室を出て、教室に戻る。

 その際に、夏目から声がかかった。


「ね、ねぇ? 景谷くん!! 渡された紙! 一体何が書かれてるんですか?」

「あ、あぁ。見てみる」


(えっとー。どれどれ)


「何が書いてあったんですか?」

「…………………」

「ちょっと! 無視しないで下さいよ!!」


 俺は、ふざけた内容が書かれてあったA4の紙を制服ポケットに深くつっこんだ。


 悪いけど、教えたくない、クラスメイトの誰にも。A4の紙にはこうかかれてあった。


 景谷ぃ! 今日のお前の舐め腐った授業態度を見て、俺はなぁ! 腹が立った。

 だからな、お前に言い渡す。二週間後の中間テストでクラス1位をとれ! さもなければ、お前の優秀生徒の支援金配布を取り消すぞ!


 ははは……何でだよ、どうして何だよくそったれぇぇぇぇぇ!


 もう叫ばずにはいられないほどになっていた。歩くペースを上げると、転入生が俺を引き止めてきた。


 そして。


「ほんと、何がかかれてあったんですか?」


 そう言って、彼女は俺の制服ポケットに勝手に手をつっこんで来て一枚の紙を取り出した。


「えーとー。何々〜今日カラオケにいくんですか? そうなんですね!! 私も行かせてください!」


 目を輝かせて、転入生の夏目はそう言った。


 いや、どう考えてもさっき渡された紙と違うのわからない? あっ、そっかこの子天然だったわ。


 それにしても、まずいぞ。不運続きにも程がある。


 水壁、助けて。


 俺は、この場にはいないクラスで唯一頼りにできる男に懇願する事しかできないのだった。


♦︎♢♦︎


「ハックション」

「みずっちー。どしたよ」

「っていうか、今日のカラオケどうする? やっぱ、今回も開催っしょ!! 毎回恒例の……」


「だな!」


「ひゃっふぅーー!!」


 当然、不運続きな景谷守は知らない。これから、自分が待ち受ける未来のことなど。そして、それがはちゃめちゃ過ぎるものだということを。

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