第2話 どうなるよこの先(改稿)
「はぁ。今日はもう散々だったな」
学校からの帰り道、俺は一人愚痴をこぼしていた。今日は一日中、濡れた髪についての悪口が止まらなかったのだ。
なんだよ……陽キャのカースト上位層の場合だと、濡れた髪見ても『おしゃれだな! カッコいい』ってなるんだろ! ふざけんな……。
もうとうに乾いた前髪をチリチリと弄くり回しながら家の近くのコンビニ、ファミルマーケットに立ちよった。
俺の妹"亜弥"の友達との約束があったからだ。
はぁー。やっぱし断っとくべきだったな。
胸中でそう思いながらも、俺はスマホを取り出し、あるソシャゲを始める。
「うわっ……まじかよ。アンダーさんにまた、ランク抜かれてんじゃん……」
アンダーさんは俺がこのソシャゲ、"プレイダンガン"を始めたときからのフレンドで、俺のライバルというやつだ。
「アンダーさんに負け越してたまるか! これ以上は負けられないっての!!」
指のタップを激しくし、ポチポチとスマホを操作する。
しばらくプレイダンガンに熱中していると―――
「何してるの???」
セミロングの赤毛の少女が俺に訝しんだ目を向け、声をかけてきた。
「あぁ……すまん。ソシャゲやってたわ」
「あやさちゃんのお兄ちゃん。自重した方がいいよ。危ない人にしか見えなかったよ」
え? マジで? そんなに!?
「あ、あぁ……わかった」
「それにしても……。昨日から言おうか迷ってたんだけど……前髪切ったら? っていうか切ろうよ」
いや、あの……俺も昨日から君に言おうと思ってたことあるんだけど。俺、一応先輩だよ? なんで、俺にタメ語でしかもなんかちょっと上から物言いしてくるの? おかしくない? 別に気にしないけどさ。
「な、なんで……そう思うの?」
「目に髪がかかってるから! そういうの見てるとこっちが落ち着かないっていうか……」
「うーん。これがいつも通りだからな、切る気はないぞ」
「……そっか。まあいいや、とりあえず……あやさちゃんのお兄ちゃんちょっとかがんでくれない? ホコリがブレザーに付いてる! 手の届きにくいところについてるから私がとってあげる!」
「あぁ、わかった……すまない」
この時、素直にかがんでしまった俺を呪いたい。
――――チャキチャキ
この音が聞こえた瞬間嫌な予感がした。
急に視界が広がり、黒い何かが落ちていくのが分かった。
えっ! これ……前髪き、切られてないか?
「あっ! こっちの方が断然かっこいいじゃん! っていうか別人並に変わったよ! よかったね!!」
よかったね……じゃねーわ! どうすんだよこれ。明日からの学校、また悪口要素が増えたくないかっ!? はぁ、最悪だ。
虚な目になった俺を見て彼女は鞄の中から、ある物を取り出し俺に渡してきた。
「はい! これ……あげる!! カツラよ! カツラ!
あやさちゃんのお兄ちゃんに合うカツラわざわざ用意したのよ!
このカツラを被れば、前髪で目がほぼ隠れた状態に戻るはずだから!!」
ははは……カツラだって。
終わった……俺の高校生活。いや、もう終わってんだけども……。
「あぁっ、もうっ!」
少女は俺にカツラを被せスマホで写真を撮り、そのまま俺に見せてきた。
え? 嘘だろ?
俺はこの時、不覚にも驚愕してしまった。
写真に写っていた俺が、数分前の俺(目に髪がかかっていた時)となんら変わらなかったからだ。
「こ、これは……すごいな。で、でもなんでこんなことをっ! い、いやでもこれは凄いな」
目に光を取り戻した俺は、彼女に俺の前髪を切った理由。そしてカツラをなぜ用意したのか聞いてみた。
「前髪切ったのは落ち着かないから、私がっ! 前髪が目にかかってる人見るとなんか、ムズムズするの! そんなんじゃ、上手くダンスできないから! そしてカツラをわざわざ用意したのは、あなたが前髪を切られて凹んでしまった時用の物。元気出たよね! 強度もばっちしだしね」
なんか腑に落ちないけど、このカツラはほんと凄い。
これなら、まぁ一安心か。
「うん。とりあえずこのカツラは頂くよ。
ありがとう。いや、ありがとうはおかしいな……」
俺が少し睨みを切らすと、彼女は『あはは』と頬をポリポリと搔きながら――
「まぁ。私が勝手にやっちゃった事だし!
一応謝る! ごめんなさい!!」
と、取り繕う様に謝ってきた。
「いや、もういいよ」
このカツラがなかったら……絶対許してないけどな!
「なら、早速だけど私の家にいこう! 今、姉しか家にいないから!」
「は、はぁ。でも、男を家に上げてもいいのか? 練習って言っても、部屋でやるんだろ??」
「あやさちゃんのお兄ちゃんは陰キャだから度胸ないはずだし、心配ない!!!」
「それは……ごもっとも。」
く、くそっ……言い返せない自分が情けないぞ!!
♦︎♢♦︎
彼女の家は比較的、ファミルマートから近く感じられた。俺の家からだと徒歩8分位か。
彼女の家は、大きな一軒家で羨ましかった。
こっちはマンション暮らしだからな。
「あっ! 家に入る前にはカツラとってよ!!」
ん? 何でだ?
少し疑問に思ったが、そう言われたので素直に俺は強度に優れているカツラを外した。
玄関にあったインテリアの数々に目を向けながら、リビングに入るとテレビを見ながらアイスを食べていた女性が声をかけてくる。
「あら。おかえり。さやね。で、そっちは……昨日言ってたダンスの家庭教師役の人? って私の学校と同じ生徒じゃないっ!?」
「そうみたいだね。お姉ちゃん!」
おい、まじかよ……。
ははは‥…。
俺は、カツラを外しといて良かったと心の底から思った。
こいつは、俺の事に気付いてないみたいだが……。
こいつは、俺と同じクラス一年三組・カースト上位グループの一員で、俺の悪口もちょくちょく言ってくる
まさか、亜弥の友達の姉だなんてな。
どうなるよ、この先……。
驚く安藤玲を尻目に俺は、ポーカーフェイスを貫いたが頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。
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