第3話 ダンス指導そして(改稿)

「ね、ねぇ?

 あなた、華奈峯第一高校かなみねだいいちこうこうの生徒でしょ? 何年何組の誰?」


「‥………」

 

「教えてくれないの??」


「……………」


 

 俺は今窮地にたたされていた。


 同じクラスの女子、安藤玲に問い詰められていたからである。


 あぁ……どうしたものか。この状況の打開策が分からない。正体を明かすなんてまっぴらごめんだ! おいおい。俺、無言でい続けることしかできないぞ……。


「教えてくれないなら別にいいけど……。

 でもね、これからさやねの指導役になるんでしょ? 名前くらいは教えてくれない?」


「うん! 私も"あやさちゃんのお兄ちゃん"呼びはもうやめにしたい!」


 それは、確かに最もな意見だ。


 しかし、困ったな……。

 無言ってわけにもいかなくなったぞ。

 名前を教えないなんてのはおかしな話だからな。


 うーん。致し方ない。小学校時代の友達の名前を使わせてもらうか。


「ゆうきです……」


「ゆうき君ね。

 さやねを、これからよろしくっ」


 そう言うと、彼女は屈託のない笑顔を向けてから右手を俺の前までそっと出した。


「あ、うん」


俺は彼女の顔を直視せずに、いやできずに握手を交わした。


 だめだ……クラスメイトの前だとどうも萎縮してしまう。


 年下なら、全然余裕に振る舞えるんだけどな。


 少しキョドってしまったが、さやねの部屋まで案内されるとさやねと二人きりの空間となった。


「ゆうき先生! 早速ご指導お願いします!!」


「はいよ」


 とりあえず、さやねがどれほど、ダンスできるのか知りたかったため適当な曲を流して簡単にソロダンスしてもらった。


 感想は――――


 うん。思ってた以上にひどい。複雑な動きに入ると、何もないとこで何回も転んでしまっていた。


絶対ダンス向いてないだろ。この子。今まで、どんな練習してきたんだか。


これは教えるのはかなり大変だな。基礎的なところ一からだ。あーやばいぞ。長くは付き合わないとは言ったものの結構時間かかりそう。


 うっ。ゲームのイベントがぁ……。


 肩を落とし泣きそうになった俺だったが、仕方なく、ほんとに仕方なく手取り足取り教えてやることにした。


 アンダーさん、プレイダンガン休止しててくれ~俺を置き去りにしないでくれ~。


 なんて、胸中ではそんなことを思いながら。



「ステップの基本はこうだ。バランスの取り方は〜。回転するのに無駄な動きを減らすには〜」


     《閑話休題》


 ふぅー。ペアダンスに入る以前の問題だったので基礎的な動き・パターンを一通りレクチャーした。かかった時間なんと3時間! どうだ俺のダンス裁きはっ!って違う違う。もう7時過ぎてるじゃないか!!!!


「ゆうき先生! 今日は本当にありがとうございました。びっくりしたけど、教えるのほんっとに上手だった!! 今日一日で、かなり上達できた気がするよ」


「いや、さやねちゃんが頑張ってくれたからな。ここまで上達がはやいとは俺も思わなかった」


「さやねでいいよ! こっちは今更だけどゆうき先生って呼ばせてもらうから!! それと、もう一つ。私んとこ両親は夜遅くに帰ってくるからさ……晩ご飯食べて帰ってね!」


「いや、それは遠慮したいというか、申し訳ないっていうか」


「大丈夫だって! お姉ちゃんも許してくれるだろうし!」


「…………」


 今更だが、両親帰ってくるの遅いってことはご飯はあの安藤玲が作ってるのか。

 だとしたら、意外だな。見た目からして料理できないタイプで俗にいう飯まず属性もちかと思っていたんだが、偏見だったか……。


 そうこう思っていると。


「さやねー。ご飯たべにいくよ。あっ。それからゆうき君も!」


 ん? 気のせいか?

 俺の名前呼ばれた気が……。


「あれ? 今日はご飯作ってないんだ、お姉ちゃん。外食だって!! ゆうき先生! いや、指導時間は終わったから……ゆうきくんでいっか!」


「……わ、わかった」


 本当は断りたかったんだが、こんなに目を輝かされたら、断ろうにも断れない。泣かれでもしたら本当に厄介だ(経験済み)。


 亜弥に連絡いれとかないとな。


 そういうわけで、妹に今日は外食するというメッセージを送り、安藤姉妹と共に近くのレストランに行くことになった。


「ファングーでいいよね?」


「うん!」


「まあ、うん」

 

 ファングーレストランは、手頃な価格で美味しいと評判のある庶民の味方の店である。


 そうして安藤姉妹にちょくちょく声をかけられながら、俺はファング―レストランへと足を運んでいく。


 ああ、早く店についてくれ……というか家に帰りたい。



♦♢♦


 お店の中に入ると、ゴールデンタイムであったからか結構な数のお客が見受けられる。


 五分程待つとテーブル席へとつくことができ、すぐに注文をオーダーできたのだが。


 アルバイトの店員が来た瞬間、なぜか俺は悪寒がした。


「ご注文は? って玲じゃん!! それから、さやねちゃんも!」


 おいおい。なんで今日はこんなに不運続きなんだよ。

 神様のいたずらというやつだろうか。


 はぁぁ……なんでお前がいんだよ。一年三組・トップカースト藍川真美!

 自己紹介でクラスの男子達の心を鷲掴みにした、美少女中の美少女っ!!!

 中でも、彼女はクラスから女神と言われているのを俺も聞いたことがある。


 普段は俺の悪口を言わない彼女ではあるが

『景谷くんは……クラスの落ちこぼれだよね』という台詞を吐いていたのを俺は決して忘れはしないぞ。


「それで、そこにいる男子は……ははーん。玲の彼氏とか?」


「ち、ち、違うって!!! い、いいから、注文!!! ハンバーグセット一つ!」


「ミートソーススパゲッティのドリンクバーありで!」


「…‥‥」


「ゆうき君! 注文はっ!!!」


はっ! 放心状態になっていた俺は

意識を戻して――――――


「シーザーサラダをお願いします」


「えっ? それで足りるの?」

「ドリンクバーもつけないの?」


 と、安藤姉妹から色々言われたが、今の俺はそれだけで十分だった。


 意味ありげな笑みを浮かべながらコクコクと頷いて、藍川真美は注文の確認をすると、テクテク歩いて去っていった。


「ドリンクバー有りは私だけね! じゃあ取りに行ってくる!!」


「気をつけなさいよ!」

「はーい!」


 さやねはドリンクバーのとこへとスタスタと歩いて行った。



 俺はというと、安藤玲に声をかけられないようすぐさま、プレイダンガンのアプリを開きゲームするという体勢にはいる。


 ふっふっふ! これで声をかけられまい!


 と思ったのだが……。


 視線を彼女の方へと一瞬移すと彼女もまたスマホをいじっていた。


 ん? あんなに激しくタップして何してんだろう?


 少し疑問に思ったが、俺はすぐさまプレイダンガンのランク上げの為、最難関クエストに挑んだ。アンダーさんには負けてらんないからな!


「うぉぉぉぉぉ!!」


 両親指を使って激しくそして高速にタップを繰り返し、クエストをクリアし終える。


 ふぅー。これでアンダーさんとやっとランク同じになったか!!!!


 もう一回やってアンダーさんに負け越したときの屈辱を――――


 なんて考えていると


「ね、ねぇ。ゆうき君……あなた、さっきプレイダンガンやってたよね?」


 と安藤玲が遠慮がちに声をかけてきた。


 「え、うん」


 彼女は何故か俺の返答を聞くと顔を二パアと輝かして


「ふ、フレンドにならない? 私もプレイダンガンやってるの!! 指の動きからしてあなたかなりの高ランカーでしょ!」

 

 俺は驚いてしまった。

 プレイダンガンはかなりマイナーな部類に入るソシャゲで、ゲーマーの人専用アプリと言われている程、かなり難しいゲームだからだ。女の子が、プレイしてるなんてな。


 ま、まぁ。フレンドはアンダーさん以外に5人しかいないし。フレンドが多いに越した事はない。


「いいよ」

「やったー!!!!!」


 フレンド申請画面を開きQRコードを俺は彼女に向け、安藤玲はそれをスキャンする。

 すると……ん??


『すでにフレンドになっています』

と表示された。


 バグってんじゃないのか? と一瞬思ったがアプデが最近あったし、考えにくい。


 不思議に思って彼女の方をチラッとみると


「え???? 嘘……。

 私にフレンドは一人しかいないのに」


 信じられないといった目でこっちを見ていた。


 「あなた、もしかしてプレイヤー名クレード??」

 

 え? な、なんで、俺のプレイヤー名知ってんだ?


 「え?? うん。そうだけど、な、なんでっ?」


 そう言うと、目の前にいた彼女は突然真紅の潤んだ瞳を向けだして。


「私はアンダー。まさか、クレードとリアルで会う日が来るなんてね」


 泣き出した彼女とは裏腹に俺は、思考がストップしていた。

 この子、なんて言った? 私がアンダー? 嘘だろ……。信じないぞ!! 俺は……。

 

「遅くなっちゃった〜。スペシャルミックスジュースを作ってるとやっぱ時間かかっちゃうわ! ってどうしたの!!!」


 泣いている姉と放心しているダンスの指導役。さやねにはどんな感じで俺たちが瞳に映っていることだろう。


 きっとさやねは動揺していたんだと様子から悟った。


♦︎♢♦︎


 俺は、信じないぞ!! 苦楽をともにした俺の永遠のライバルそして親友が学校で俺の悪口をちょくちょく言ってくる安藤玲だなんて

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