第39話 陰キャぼっちのデート

「キモッ……何、髪の手入れなんてやってんの……。デートにでも行くつもり??」


「ちょっとな……。用事があって……」


「そう。まぁどうでもいいけど……」


 翌朝。すんなりと早起きできた俺は、今、柄にも合わないオシャレってのをしている。

 洗面台を一人で占拠していると、毒舌亜弥から悪口を言われたが、どうも歯切れが悪かった……。普段の口調だともっとキモッ! と強く言うはずなのに……どうしてだろう。

 まぁ、突っ込んだら朝っぱらからビンタを貰いそうだから言わないが……。


「あっ。それはそうと亜弥。俺、今日帰るの遅くなりそうだから。よろしく」


「分かった。けど、私も遅くなるかもだから」


「了解。でも、遅くなるなら気を付けろよ。

曲がりなりにも、可愛い中学生なんだから」


「か、可愛いとか、何言ってんのよ。クソ兄貴。言われなくとも、気を付けて帰ってくる!!」


「そ、そうか」


 亜弥は、俺がそう言うと、自室へと急ぎ足で戻っていった。何だ? 俺、不味いこと言ったか? 変な奴……。

 去り際の亜弥の顔が少し赤く染まっている様に見えたが、多分俺の見間違いだろう。




「よし、こんなとこか?」


 亜弥が部屋に戻って数分が経過した時。

 昨日里島に叩き込まれたヘアセットが完成したので鏡で自分の姿を見てみた。まぁ、形にはなってるか……。おかしなところがないか、全体像を見てみるがこれといった違和感は一つもなかった。

 流石、オシャレのスペシャリスト里島の教え……。半端ねぇ……。


 昨日買った服を着て、髪を整え、ネックレスをつけてみたが、オシャレ皆無の人間から見ても意外と様になっていたので、俺は心の中で称賛を送る。まぁ、二度とヘアセットのご教授だけはごめんだけどな……。あれは思い出すだけで身の毛がよだつ。一種の拷問とも言っていい……。


「あっ、もうこんな時間か……」


 里島のことで苦笑しながら、時計を見るとすでに9時を回っていた。

 

「やべー……急がないと……遅刻はまじで勘弁だ……」


 寝る前に用意した荷物を持って俺は急いで玄関へと向かった。「いってくる」とだけ言って外へと飛び出すも、亜弥からは何の返事もいただけなかった。

 うむ……平常運転である。


♦︎♢♦︎


「うげっ……暑いな……」


 外に出てから10分足らず。

 初夏の日差しに、耐えきれずもう俺は苦言を漏らしていた。本当、野外運動部の人達は尊敬に値する。

 全く、インドアの俺にはキツすぎる眩しさと暑さだ……。俺は悪態とため息をつきながらも、嫌々住宅街を駆け、橋を渡り、大通りを抜けていった。


♦︎♢♦︎

 

「はぁ……やっとか」


 俺はスマホのGPS情報を元手に、途中、疲れながらも遊園地ナットパークに辿り着いた。もうすでに俺……フラフラなんだが大丈夫だろうか。不幸中の幸いなのだろうが、ほんと家から遊園地がそれ程離れてなかったのが救いだった……。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 テクテクと重い足を動かしながら、俺はナットパークの遊園地ゲート付近まで歩いていく。すると……刹那。神々しい女性が目に入った。


何だよ……あの女性は……。地球外生命体だろ……溢れ出るオーラがもう異次元だ……。


 その女性は、壁にもたれかかっておりスマホを弄っていたが、周りの人からの視線に気づいていないのだろうか。


「凄い可愛いくね? あの女の子。声かけようかな……いや、無理だ。相手にされないに決まってる……」


「あの子、彼氏待ちなのかな……。可愛すぎてもうこっちが恋に落ちちゃいそうだよ。

危ない橋、渡らせる程の美人。彼氏はどんなんだろ……」


 何を話ししているのかは、遠くて聞こえなかったがブツブツと彼女の方を見ながらコソコソ話す人達は、たくさんいた。


「こうみると美人も美人で大変だよなぁ……」


 ポツリとそう声を漏らしてから、俺は神々しさのある女性から離れたとこの壁によりかかった。


 すると………


「あっ、やっときた……」と、先ほどの神々しい美人さんが駆け寄ってきて声をかけてきた。

『え? 誰ですか? こんな神の子みたいな人、俺の知り合いにはいません……』と思ったが、顔を近くで拝んでみると、その女性は藍川真美だと言うことが分かった。


「張り切ってきたんだけど、どうかな??」


 赤い口紅で塗られたぷるんとした唇から

そう声が発せられる。


「え、あっ、うん。似合ってると思うよ」


「そう。なら良かった。ありがとね。それと

景谷君も、その、凄く似合ってるよ……。

学校の時とは別人に思えるくらいに………



なんか、懐かしいな………」


「あ、あぁ……ありがとう。それと、最後なんか言った? 聞こえなかったんだけども……」


「いや、き、気にしないで…………それより

今日はチケット用意してくれてるんでしょ?

早く、回ろうよ……」


「あ、あぁ……」


 なんか話を逸らされた気がするが、まぁ気にする事ではないだろう……。

 俺は頬をぽりぽりと掻いて、歩き出そうとすると、藍川真美が突然、俺の腕に抱きついてきた。


「うっ………」


「デートなんだから、これ位問題ないでしょ?」


「で、でもこれ、罰ゲームデートみたいなもんだから、そこまでしなくても……って

うぉっ……」


 たわわに実った果実の感触を左腕に感じ俺は思わず変な声を出してしまう。

 その俺の様子を見て彼女は言い放つ。


「ふふっ、私がしたいんだから問題ないでしょ? だから、いこっか、こ・の・ま・ま」


 上目遣いに嗜虐的な笑みを向ける藍川真美。うん、この神の子。絶対にわざと果実を俺にあててるよ………。

 

「わ、分かったよ……」


 そう思うも、俺はこうとしか言えなかった。なんと情けないことだろう。


 そこから俺と藍川真美は、もはやカップル同然のスキンシップを取ったまま遊園地へと入っていった。


♦︎♢♦︎


 一方その頃。


 ナットパークで、冷や汗をだらだらと垂らしながら、頭を掻き毟っているイケメン男子が一人いた。


「な、何々だよ……。景谷の奴………

なんであんなにイケメン何だよ……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき


 一章完結まであと、数話です。一章書き終えたら一年間活動を休止しますのでよろしくお願いします……。詳しくは近況ノートを見てくだされば分かると思います。


 それと、1章が完結してもこの作品は書き続けます。一年後に……となりますが。


 なので、気長に待ってくださると嬉しいです。。

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