第37話 不甲斐ない陰キャぼっち!

「そう……もっと、強く……」


「こ、こんな感じか??」


「い、いやっ……ちょ、ちょっとどこ触ってんのよ……」


「ご、ごめん……」


 事務室的な場所で今、俺は里島に大人の階段を登らされている。


「もう……って、待って……そ、そこは

だから、駄目って……」


 俺に駄目だしばかりしながら、頭を抱え込む里島結女……。やはり、俺にはまだ早かったようだ。陰キャぼっちには、少し刺激が強すぎたらしい。里島は、熱い吐息を漏らすと「ここをこうするの」と俺にご教授をしてくる。


 里島に注意されるのは、一体これで何度目だろうか。里島の満足のいく様に俺は中々指を動かせないでいた。初めてだから、というのは当然あったが、ここまで自分が恥をかくことになろうとは……。もう、俺お嫁に行けません……。


「ねぇ、何度同じことを言えばいいの??」


「ご、ごめん……」


「あと何回で上手く出来そうなの?」


「………分からん」


「はぁ……なら、とりあえずまたカチカチにさせるわよ……」


「……あぁ、頼む」


 そして、里島は再度


 そう。俺は今、里島に髪のセット方法とやらを叩き込まれている。


 初心者でも凄く簡単にできるヘアセットらしいが、俺は全く持って上手く出来なでいた。それも、自称? オシャレスペシャリストの里島の教えがあっても、だ。

 全く、顔から火が出そうな程恥ずかしい。

 

「いい? ……ここは、こうして………」


「あ、あぁ……」


「あぁっ、違っ……もう!」


「す、すみません」


「も、もう一回ね。できるまで帰さないから……」


「は、はい………」


♦︎♢♦︎


「ま、まぁ形はできてるかしらね……。

 もう疲れたわ……帰っていいわよ」


「………………………」


「かっ景谷……あ、あんた大丈夫?? 廃人みたいな顔してるけど……」


「まず、襟足を上げて……サイドを……

そして、前髪を………」


「だ、大丈夫じゃ……ないわね。って、ちょっと……そんなふらふらで帰るの??」


「あ……や………さ……が」


「そんなんで帰ったら事故に会うわよ……。

もう、しょうがないから私が送るわ。家までの道教えなさいよね?」


「あ………い、いや大」


「丈夫な訳ないから……はい、家までの道教えなさい! もう外暗いし……」


「…………コクリ」


♦︎♢♦︎


 ヘアセットがようやく自分でも出来る様になった後、俺はなんだか視界にモヤがかかった様な感じがした。ヘアセットの事しか頭にない……。里島が家にく………る? もう、いいや。流れる様になれだ。


 そして、放心状態の俺は里島と共に手首をがっしりと掴まれながら、自宅へと向かっていった。


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