第36話 陰キャぼっちは選択を間違える!
里島に連れ回され、気付けば夕日は沈みかけていた。ご機嫌良さそうに歩く彼女に対し、俺はと言うとさっきから凄くげんなりとしていた。
「か、金がぁ………」
俺の財布は、空っぽに近いぐらいに軽くなってしまったのだ。里島にあれこれ言われたのを買わされた挙句こうなってしまった。何の生産性があって使うのかもよく分からんオシャレ品を見ると、ため息が自然と漏れてしまう。
「お金のこと気にしすぎよ……カッコよくなる為には、それ相応の対価が必要に決まってるじゃない」
里島は腕組みをして、俺を一瞥する。
「そ、そういうもの……なのか??」
「そういうものよ……オシャレのスペシャリストの私が言うんだから間違いないわ」
「あ、あぁ……」
派手に着飾る里島を見ると……うん。
説得力ありまくりで、否定出来るはずもなかった。それに、俺のために行動してくれてるのには違いなかったため俺に文句を言う義理はない。
「それはそうと、まだ時間あるでしょ?」
現在の時刻は、18時30分。
もう解散しても、いい時間帯なのに彼女はまだ俺を連れ回したいらしい。
金がない俺に、今度は何をさせるというのか……。
帰ってゲームしたいというのが本音だったが、少し気になったので「あぁ……」と返してみた。
すると、彼女はニヤリと口角を上げ
「ふふっ……言質取ったわよ」と言い妖艶な笑みを浮かべた。
普通の男子なら、こういう女の子を素振りを見たらキュンとかするのだろうか、俺は怖い……としか思えないのだが。
彼女の顔には「家に帰さないよ……」という文字が書かれてる様にしか見えなかった。
どうやら、俺は世界線を間違えたらしい。
興味本位で「あぁ」とか言った自分をぶん
殴りたい。ということで、誰かタイムマシンをくれ……。
「よし! なら、行こっか……」
心の中で救いを求めるも、現実は非情だった。里島は俺の手首をガチッと掴みどこかへと歩き出した。
早く終りますように……帰れますように……。
里島に引っ張られながらも、最後の足掻きで俺は神頼みをした。
最近意地悪でしかしない神様だから、期待は出来そうにないが………。
少しくらいは期待しても………とそう思ったのだ。
そこから、里島は店外へと出てテクテクと見知らぬ道を歩き出した。
「ど、どこ行くんだよ……」
「秘密だけど……」
「この辺の道分からないんだが」
「そう。何とかなるから大丈夫よ……」
何とかなるからってどういう意味だよ。
まぁ、スマホでGPS情報を使えば帰れないことはないが……。
「……………」
「明日、デートなんでしょ? なら、行って後悔しないから」
「あ、あぁ……」
その言葉で俺は、素直に彼女についていくことにした。明日は藍川真美とのデートだ、
一応……な。連絡もこれからいれないといけない。明日のデートどうなるんだろうな……
里島の背中を見て、俺はつくづくとそう思ったのだった。
♦︎♢♦︎
「ここよ」
「ここ……か??」
それから、15分程歩いて目に映ったのは
大きな美容院だった。俺はまさか……と思い、彼女に恐る恐る聞いてみた。
「もしかして……ここが……」
「そう。私んとこの親が経営してる美容院」
「か、帰る……」
「ま、待って……」
俺を逃がさんと言わんばかりに手首の拘束を解かない彼女。
いや、帰らしてくれ……。髪切りに来たわけでもなければ、里島の両親に挨拶しに来たわけじゃない……。
「大丈夫……、裏口から入るだけだから。
髪は切らないし……」
俺の心を読む様にして、彼女はそう言い放った。ほ、本当か? と思い疑いを持ったが
抵抗する術もなく渋々、彼女のいう裏口に案内された。そして、そのまま中に入らされた。
「ひ、広いな……」
「そうでしょ、そうでしょ……。じゃ初めましょうか」
「え? な、何を………」
俺はこの時、この場所に来るべきではなかったと後悔することになるのだった。
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