第42話 陰キャぼっちのデート④
「どうしたの? 早く、店に入ろうよ」
「い、いやこの店、カップル限定って……」
「あぁ……細かい事は気にしないで、早く行こっ」
「って、ちょっ………」
「いいから、いいから」
俺の手をひきながら、藍川真美はそう言って半ば強引に店に入っていった。
く、くそっ……。なんで、こんなに力が強いんだよ……。
抵抗しようにも、彼女の握る力があまりにも強かったため、俺は抵抗する術もなく、彼女の後に続く様になってしまった。
勘弁してくれよ……神様。里島の時といい、貝坂の時といい、俺は一体あとどれ位修羅場を乗り超えないといけないんだよ……ふざけんな……。
と、そう思い歯を食いしばっていると……
「いらっしゃいませ! ってうわぁ……
美男美女カップルきたぁ!!!!」
と、活気のあるボーイッシュな女性店員が駆け寄り声をかけてきた。
『俺は美男じゃない』と咄嗟に突っ込みを入れようとすると、女性店員は目をキラキラと輝かせながら、「どうぞ、どうぞ、こちらへ〜」と言って席まで突風の如く案内をしてきた。
その際……カップル全員が俺……いや、藍川真美の方に視線を向けており、俺は何というかとても居心地が悪かった。
まじで、もう帰りたい………。はやく家に帰って、プレイダンガンでもしてたいよ……。
♦︎♢♦︎
「このパフェとかどう??」
「いや、おい………。ま、まじかよ……」
席へと案内された俺たちは、今、メニュー表を見ており何を注文するのかを検討している。
が、しかし俺は、その時あることに気づいてしまい頭を抱え込んでしまっていた。
「うーん。微妙だった? なら、こっちに……」
「って、そうじゃない。味とかの話じゃなくて……何でこの店はカップルで一つしかパフェを選べないんだよ」
「え? だって、ここカップル専門店だよ。
当然じゃん……」
『そんなこと?』と言いたげな顔を浮かべ、
「どれが、いいかなぁ……」とメニュー表を食い入る様に見つめる彼女。
いや、そこ重要だろ……。もしかして、俺が普通じゃないのか……。俺がウブすぎるだけだってのか……。付き合ってない男女同士が、一つのパフェを食べあうってのが、ふ、普通と言いたいのか?
「……普通かな」
「え??」
「いや、サイズよサイズ。普通が良いかなと思ってね」
「あ、あぁ……そういうことか」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
心の声でも読まれたのかと思ったからだ。
「ど、どうしたの? 何か歯切れが悪いけど」
「いや、本当になんでもない。ちょっと考え事してただけだから……」
「そう。なら、良いんだけどね。ちなみに、メニューの事で、私これが良いんだけど、これでいいかな??」
「あぁ……うん。俺はなんでもいいよ」
「分かった。なら、これにする。ありがとう」
「お、おう」
俺は、そう言って彼女が指差すメニューを
チラッと見てみる。
「げっ・・・」
気づけば、俺はそう口にしてしまっていた。無理もない。だって………
「どうしたの・・・なんか、まずいことあったかな・・・」
「あ、え、えっと……その、メニューのことなんだけど……」
「え、この『ラブラブスペシャルパフェ、愛の蜜添え』に、何か問題あった?」
「いやいや。問題大有りだろ・・・」
痛々しいパフェの商品名に俺は、頭を抱え込む。歪なグラスの形、ハート型に綺麗に型取りされた苺味のアイスクリーム、そして極めつきに、これでもか! と言わんばかりにたっぷりとかけられた蜂蜜、通称愛の蜜。
一見、ただの甘いパフェに思えるがこれは
ただの甘いパフェではない。
理由は単純。
「ストローが一つな上に、スプーンも一つなのって………あ、あり得ないだろ……」
そう。色々とこの店限定の特殊ルールがあったのだ、このパフェには。誰だよ。このパフェとルールの発案者。出てこい、プレイダンガンで負かしてやるから……。
そう思い、少しイライラが募るも責め立てても仕方ないので俺は、彼女にこのメニューを止めるよう頼んでみることにする。
『このパフェだけは、やめとこう』と。
だが……それは思いもよらないかたちで遮られることになってしまう。
「えっ。あの美男美女カップル、ラブパフェ頼むらしいぞ」
「うんうん。私も聞き耳立てて聞いてた。私たちでもあのパフェは無理だよね〜。恥ずかしいったらないでしょ?」
「うん。だけどそれを頼もうとするとか、あの美女、凄すぎるなぁ。相当な勇気が必要だっただろうに……。もし、これで男子の方がオーダーキャンセルとかしたらまじないよなぁ」
「うん。それはないよね。私だったら傷ついて泣いちゃう……」
「だよな。オーダーキャンセルとかはまじでないよな……」
そう。隣のテーブルに座るカップルが囁き声で俺の方をチラチラとジト目で見ながらそんな会話をしていたのだ。
コソコソした掠れ声ではあったけれども、
俺の耳にはしっかりと届いていた。
な、何だってんだ………。このメニュー取り下げを頼み込む罪悪感は……。
『彼女……相当な勇気が必要だっただろうに』
『それしたら、まじでないよな……』
カップルの会話が脳で反響する。
「ど、どうしたの? 景谷くん。さっきから
何か考え込んでる顔してるけど……」
心配そうに、俺の様子を見た藍川真美が声をかけてくる。
うん……。そんな上目遣いで見られると、な。『私だったら泣いちゃう』というカップルの声が再び脳内で反芻し、俺はお手上げ降参の意を示すかの様に、両手を上げこう言い放った。
「うん、少し考え事してた。はやく頼もう……」
「え、う、うん……いいの? このパフェで」
「あ、あぁ……好きにしてくれ……」
彼女は、俺がそう言うと目をパチクリと何度かさせた後にベルを鳴らした。
もう、後戻りは出来ない………。
自分が頼むメニューを見つめながら俺は店員が来るまでの待ち時間に、謎の緊張感を漂わせていた訳であるが、『えっ!! ラブパフェですかぁ!! ありがとうございます!! それと共に、美味しいシチュいただきます!!』とかいう店員の訳わからん発言で俺の緊張はどこかへと去ってしまうのだった。
うむ、ボーイッシュな女性店員さんよ。
貴方みたいな、突風の様で嵐の様で……掴みどころのない、何考えてるのか分かんない人が偶然、俺の知り合いにいるから、それもイケメンの男子。だから、お似合いだと思うんだ。紹介してあげるから、彼氏作ってこの店のバイトやめよう、そうしよう。
♦︎♢♦︎
「はっくしょん。くそ、景谷の奴。まさか、
あんな店に入るなんて……。カップル専門の店に入りやがるとは、不覚だった。これじゃあ、店内に入れない。それに何してるのか動向が探れない……。こ、こうなったら……」
俺こと水壁忠政は、思いついた妙案を活かすべく、とある人物をこのタイミングで呼び出すことにした。
「もう、後にはひけない……」
そう言って、水壁忠政は物陰へと姿をくらませていく。
だが、この時水壁は気付いていなかった。
自分の行動が自分の首を絞めているということに……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
あと、一章完結まで2、3話です。
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