第43話 陰キャぼっちのデート⑤

「お待たせしましたぁ! ラブパフェです!!」


 注文してから、それほど時間はかからずにパフェは俺たちの元へと運ばれた。

 出来れば、きて欲しくなかったんだけどな。何だよ、この異常なボリューム感といい、ハート型のストローといい………。それに……


「美男美女の……愛パフェ………えへへへへへ」


 この女性店員の気味の悪い笑顔。おまけに、加えて……


「ラブパフェ来たぞ、みろよ。あれ」


「うわぁ。凄いラブラブなんだね。あれ頼むって相当じゃない?」


「あぁ、俺たちでもちょいときついよな」


「うん……あれは、ちょっとね〜」


 『ボソボソボソボソ』


 何でかは知らないが、あらゆる方向から店内にいるカップル達の視線が感じられた。正直言って気分は最悪と言ってもいい。脇から嫌な汗が滴り、額からも汗がにじみ出る。


「どうしたの? 景谷くん。早く食べようよ」


「いや、あ……お、おう」


 突然、声をかけられた俺は少しきょどってしまう。どうして、彼女はこの状況で平然としてられるのだろうか。やっぱり、神の子だからか、そうなのか……。鋼のメンタルを持ってるとしか考えられない。


「じゃ、食べようか。景谷くん」


「あ、あぁ……」


 俺は辺りを見回しながら、観念したかの様に頷いた。無理もないだろう。だって、さ。

 期待と羨望の眼差しを大衆から向けられたんだ。逃れられないに決まってる………。


「はい、早く吸うよ!! んーー」


 はっと我に返り俺は彼女の方へと視線を向ける。すると、そこにはハート型のストローをくわえた天使がいた。


 そして、その天使は俺に反対側のストローをくわえるように促してくる。


 や、やばい……。何だよ……。このヴィジュアル……。破壊力やばすぎだろ……。


 ストローをくわえた彼女の姿は、俺から見た角度で写真を撮れば間違いなく金が取れるレベルで可愛かった。もう、モデルでもやりなよ、君。と、思わずスポンサーになった気分になる。


「ん、ん、ん」


 そんな俺の様子を見た彼女はストローをくわえたまま顎をクイクイと動かして俺がストローをくわえる様に再度促してきた。


 や、やるしかないのか………。


 そう思った俺は周りからの視線を無視して、目を瞑りストローへと唇を近づける。


 そして、ゆっくりと目を開くと彼女の綺麗な瞳と目が合ってしまい、俺は動揺してしまった。


 や、やばいって……。これは流石に……。


「ふふっ……。じゃあ一緒に吸おっか」


 そんな俺の内心を無視して彼女は追い討ちをかけてきた。


 う、うぅ………。顔が熱い。それに頭の中が次第に真っ白になっていく。それこそ……


『『ふぅーー!!!!』』


「えへへ、美味しいシチュ、脳内保存です!」


 という、周りの声が頭に入ってこないくらいに……。


「な、なんか恥ずかしいけど、甘くて美味しいね、景谷くん。じゃあ、このアイスクリームとか食べさせてあげよっか」


「………ん、あ、う、うん」


 それから、俗に言う『あーん』やら何やらをされたが頭が真っ白になっていたせいか、顔が熱いだけで特にこれと言ったことはなくパフェを食べ進めていった。ちなみに、パフェの甘さは一切感じられなかった。『無味』なんてパフェを食べたのは初めてだった。

 もうこんな体験は、何がなんでもしたくない。顔が熱くなるだけだからだ……。


♦︎♢♦︎


「んぅーー。美味しかったね! パフェ」


「あ、お、おう……」


 気づけば13時を回ったこの頃。俺と藍川真美は、あのラブパフェを食べ終え今は、あてもなくブラブラと歩いている。


 あのパフェの事はもう、忘れたい……。


 そんな事を切に願いながら……。


「景谷くんって、行きたいアトラクションってある?」


 パフェの件で頭がいっぱいになっていた俺に隣を歩く彼女は平然と声をかけてくる。


「いや、これといって、特にはないよ」


「そ、そう。なら、さ。ここ行ってもいい?」


「ん? あぁ、コーヒーカップか」


「うん………」


「分かった。ならコーヒーカップのとこに向かおうか」


「え? いいの??」


「え、お、おう。俺は全然問題ないけど」


「そ、そう? これ結構回るやつだけど……」


 彼女は心配そうな表情を浮かべ俺に上目遣いをしてくる。おそらく、ジェットコースターの件があったからだろう。だが、回るだけなら怖がる要素はどこにもない。高いとこから急落下するジェットコースターとは訳が違う。


 そう思った俺は、「全然いけるよ」と言い放った。


 すると、彼女はその俺の様子を見て「わ、分かった……。なら、いこっか!」と柔和な笑みを向けそう言った。


「あぁ」とだけ言って、俺は彼女と共にコーヒーカップに向かい出す。


 コーヒーカップ……。回るだけなんて楽勝だろ? そんな考え一つでコーヒーカップに乗ることになる訳だが………






「だ、大丈夫?? なんか、景谷くん。フラフラしてるけど………」


「ま、まさか……こ、ここまでコーヒーカップがグルグル回るとは思わなかった……」


「ご、ごめん。やっぱり止めるべきだったよね??」


「いや、自業自得だよ……。藍川さんは何にも悪くないよ……」



「うぅ……ほんとごめん」


「いや、何で謝る……の」


 頭がフラフラとしながらも、俺はそう言った。完全に舐めていた。コーヒーカップを。

 ジェットコースターまではいかないもののかなりキツかった。よく小さな子供があれに乗れるよな……。『キャッキャキャッキャ』と笑いながら……。


「やっぱり、私が悪いし……あのベンチで休む??」


「いや、問題ないよ。次にでも行こう」


「でも、景谷くん。すっごい危なっかしいよ……。やっぱり休んだ方が……」


 どうやら、彼女は心配症であるらしい。少しフラフラするだけだから、大丈夫だろう……多分。


「いや、ほんと大丈夫だから」


 流石にまた膝枕を所望する訳にもいかない。その思いが強かった俺はそういった。


 すると、彼女は渋々ながらも「わ、分かった。でも、無理はしないでね」と言ってくれた。


 その『無理しないでね』の一言が俺の心身を癒すも、彼女には言わないでおく。ってか言えないだろうな。恥ずかしすぎて、口が裂けても言えない……。


♦︎♢♦︎


「次は、このパレードでも見に行こうか」


「うん、いいよ!!」


 今の時刻は16時頃。コーヒーカップを乗り終えてからすでに2時間が経っていた。

 というのも、ブラブラと食べ歩きをしてたら自然とそうなっただけなのだが………。


「いよいよ、夕方のパレードが始まるね」


「おう。この時のために、夕方まで食べ歩きをしてたからな」


「うん! ほんと楽しみだね」


 彼女は、眩しい笑顔を俺に向ける。余程、パレードが楽しみなのだろう。まぁ、俺も楽しみではあるのだけれど……。


「じゃあ、パレードのとこまで向かおうか」


「うん! 早く向かおう」


 そして、俺と彼女はパレードの場に向かおうと歩き出す。ちょうどその時だった。


「あのー、すいません。ちょっとそこの男性。聞きたいことあるんでいいですか?」


 肩をトントンと叩かれ、見知らぬ男性に声をかけられる。振り返ってその男性の顔を見ると、サングラスにマスクに……と。

 なんだか、怪しさ全開の人であった。でも

俺は「な、何でしょう……」と訝しまずに言い切る。


「いや、あのぉ。少しラブパフェの事で話がありまして……男性だけ、になるんですが……

少々、ついてきてもらってもいいですか?」


 ら、ラブパフェだと……。何か俺、やらかしたのだろうか……。その線は十分に考えられた。なぜなら、俺はあの時頭が真っ白になっていたからである。ま、まずいかもしれない……。何か忘れ物でもしたのか?? いやはたまた……。


 焦り始めた俺は、藍川真美の方へと視線を向ける。すると、彼女は「行ってきてもいいよ。何か話があるんだろうし。私、ちょうどお手洗い行こうと思ってたから。また、メッセージアプリで連絡取って会おうね」と、言ってきた。申し訳なさとありがたさを噛み締め俺は、「ごめん」とだけいって男性の後へと続いていった。


 だが、この時の俺はまだ知らない。この選択が間違っていたということに。






「いやっ。ちょ、ちょっと………」


「すまんな、嬢ちゃん。俺、もうこんな事やめたつもりだったんだけどよ。ちょっと訳があってな……」


「い、いや……。(景谷くん……いや、君た、助けて……)」






 ククッ。馬鹿な奴だぜ。景谷の奴、呑気に俺の後をついてきやがって。お前の拍子抜けな面を拝んでやる。なんたって、こっちには

最強のチンピラがついてんだから、な!!


 この男、水壁忠政の計画は順調であった。だが、彼は知らなかった。最強のチンピラが最強なんかでは、ないということに。

 そして、彼は思い知ることになる。景谷守という男についてを………。





 話って、なんなんだ……。ラブパフェの件だったら、嫌な予感しか………。

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