第41話 陰キャぼっちのデート③
「んんっ………て、うわっっ。そ、そうか、俺は死んだのか………おやすみなさい」
目覚めたら、天使の顔が眼前にあった。
どうやら、俺は死んでしまい天国へと羽ばたいて………
「死んでないから………。景谷くん……しっかりして……」
「げ、現実なの……か」
「うん、そうだから……」
「まじ………か」
「うん……だからしっかりして。それと、目覚めたのなら起き上がってくれると助かるかな……その、少しチクチクするから……」
「わ、分かった……」
俺はゆっくりと目を開け、そしてゆっくりと起き上がった。
どうやら本当に天国でも夢でもないらしい……。
辺りであちこち見られるアトラクションに賑わう人々を見ると、気絶するまでの光景がフラッシュバックした。
そ、そうだった……。ジェットコースターに乗って俺は気を失ったんだった……。
そ、それで………
「そ……その、膝枕どうだったかな……」
なびく黒髪をくるくると指で巻きながら、恥ずかしげに、彼女は聞いてくる。
や、やはり、あの体勢的に、あれは膝枕だったのか………。
あの、ぷにぷにとした何とも言えない、弾力のあるものと言えばそれ位しかないよな……。もっと堪能すれば良かった……ってそうじゃないだろ俺。しっかりしろ。
「そ、その……やっぱり嫌だったかな……」
「いや、さ……」
「さ?」
彼女は人差し指を顎にちょこんと添えてちょこんと首を傾げる。
あっ、危ねぇ……。『いや、最高でした』って言いそうになった……。そんな台詞吐いたらキモすぎて引かれるに決まってる……。
「さ? うーーん、結局どうだったのかな」
「いや、まぁうん。正直に言うと覚えてない……」
「そ、そっか……。覚えてない……か」
そう言うと、少し残念そうに肩を落とす藍川真美。
何でしょんぼりとするのかは分からないが、許してくれ。流石に『最高だった!』とか『良かった!』などの感想は言えない……。それに、もしどの辺が最高だったの? なんて聞かれて『ぷにぷにとむちむちのレクイエムが!』なんて正直に言ってしまえば、俺、刑務所に送還されそうだしな……。
「あっ、それはそうと景谷くん……。ごめんなさい。無理にジェットコースター連れ回して……先に言うべきだった……」
「いや、それはいいよ。(二度とごめんだけど)新鮮な体験できたし。それに、無理にじゃなくて、ちゃんと自分の意志でジェットコースターに乗ったから」
「そ、そう。それなら、良いんだけど……」
「お、おう……」
俺は、太ももに目がいきそうになるのをぐっと堪え、恥ずかしげに頬を掻きながら、時刻を確認する。
「げっ……12時回ってんのかよ……」
「うん、景谷くん、すやすや眠ってたから……」
「………そ、そうか。なら、ご飯でも食べにい、いかないか?」
また膝枕の話題になりそうだったのでそれを回避すべく俺はお食事の誘いを申し出る。
正直言うと、腹は全然減ってないが。
「うん賛成! パフェ屋のとこ行ってみよーよ」
彼女は、満足げに言って、ニコッと笑った。俺はそれに見惚れそうになるも、
「お、おう」とそっぽを向きながら返事をした。
すると、刹那……
鼻腔をくすぐる香水の匂いがおしよせる。
彼女が俺の方へと急接近してきたのだ。そして、彼女は匂いで意識が溶けそうになっている俺に追い討ちをかけるかの様に、手を握ってくる。
「え??」
突然のことに、俺がそう腑抜けた声を出すと、「曲がりなりにもデートな・ん・だ・か・ら」と言って、彼女は俺の手を握ったまま歩き出した。
「いや、ちょっ…………」
「うん? 何か異論ある??」
「いいえ、ありません……」
情けなくも、上目遣いを向けられると俺は何も言えなくなってしまった。前に赤城と彼女の対話を盗み聞きしてしまった時、赤城が「真美ちゃん! その上目遣い反則だからな……」と言っていた意味がよく分かった気がする。
赤城。俺、お前には全くもって同情なんてしたくないが、この上目遣い……確かに反則だ。全く異論が唱えられない。
「あっ、もう着くよ! あの店!!」
はしゃぎ気味で俺の手をひっぱりながらそう言う彼女。園内には、いくつも食場があるナットパークだが、目的地であるパフェ屋は、膝枕をされたベンチからはそこまで距離は離れていないっぽかった。何せ、そこまで歩いてないしな……。
「意外と早くつくも…………」
俺は、そう言いながら店の看板を見るとその場で固まってしまう。
「どうかした??」
口をぽかんと開けて、唖然とする俺の方へと顔を向け、ちょこんと首を傾げる藍川真美。
いや、待て待て………。何で藍川真美は
平然としてんだよ……。こんな店、入れる訳ないだろ………。
俺は内心でそう吐き散らした。
が、それは仕方のないことだと思う。
だってこの店、看板を見れば分かるが、カップル限定のパフェ屋なんだから……。
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あとがき
一章完結まであと、残り2、3、4話いくかいかないかくらいです。
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