第19話 "陰キャぼっち"ひらめく(改稿)
――――ガチャッ。
「「「「………………………」」」」
――――バタン。
やばいやばいやばいって。何で、氷野以外無表情なんだ………。女子達、特に安藤玲と神室美沙はメデューサを見て石にでもされたのか? という位に固まっていた。気まずい……。こんな中、神室美沙に金貸してなんて言えない……。
俺はさっきからドアを開けては閉じ、開けては閉じを繰り返していた。
氷野はこの空気の中、呑気に本を読んでいた。……猛者だよあんたは、はぁ。
彼女は本に熱中しているのか、こちらの姿に気づいてなかった。
藍川真美は、顔をやけに赤くしてずっと下を向いていた。お前、そんなに顔赤くすんなよ。勘違いしちゃうだろ……。どうしたものか………。
うーーーんと頭を抱え解決策を思案していると、ポケットの中でスマホがブルブルっと振動した。何だ? と思い、スマホを見るとあやさからの連絡だった。
『クソ兄貴!! ご飯は今日、友達んとこで食べる事になったから、そこんとこよろしく』と。
「了解」と送ろうとした時、脳にビリビリっと、電気が走った。
ひらめいた! とは、正にこの事を言うのかと、実感した。
あることを思い出したのだ。
♦︎♢♦︎
今からおよそ8年前……。
俺がまだダンス現役でやり込んでいた時の話だ。俺が県で活躍できるレベルまで成績が上がり始めた時に、俺に感化され、あやさはダンスを習い始めた。
今となっては、あやさのダンスの腕前は見事な物であるのだが、始めたての時は、
全くと言っていいほどダンスに不向きでよく先生に、叱られていた。
「兄にーぐすん。やっぱり、私には出来なかった。兄に見たいに、、皆をアッとさせるダンスは私には……ぐすん」
落ち込み下を向いていた妹に………俺はいい言葉をかける事はできなかった。
今でも、その事を思い出すと情けないと思う。兄失格だ……と思う。
家で、元気がなくなってきたあやさ。ダンスを嫌々でやる様になってきた
あやさに、当時の俺は言葉ではなく"歌"を届ける事にした。
―――才能がなきゃできない。
―――天才じゃなきゃできない。
―――凡人にはできない。
俺は、この時からこういった言葉が大嫌いだった。確かにこの世の中には、天才だって何人もいる。世の中不公平だと何回思ったか計り知れない。
けれど、もとを辿れば同じ人間なのだ。同じ様に、オギャーオギャー泣いていた
赤ちゃんから、人生はスタートしたのだ。彼らに出来て、俺ら凡人に出来ない事なんてないはずなのだ。
天才に勝つ、追いつく為には、質より量をこなすしかない。。それが、凡人に残された道なのだ。でも、その道は、とても険しい。毎日が辛く逃げ出したくなるものだ。でも、あやさには、その道から逃げて欲しくなかった。
「才能がないから…」という弱音を聞きたくなかった。あやさに、もう一度熱意を与えるため、当時の俺は、ずっっっと練習をし続けていた歌を熱唱することにしたのだ。
――――何故歌なのかって??
あやさに、「下手くそ」と言われ続けていたからだ。
下手くそと言われたのが悔しくて、当時の俺はあやさに隠れてずっっと歌を練習していた。地道な努力を繰り返し、次第に周りからも、上手と言われる程に歌は上達した。だから―――
「君が好きなんだ〜振り向いて欲しい〜。この熱い意志と想いを胸にやどして
欲しい〜」と、熱唱してやった。
あやさは、目を見開いて、「嘘、兄いに上手になってる……」と
驚いていた顔は、今でも忘れない。歌が下手だった俺の歌が上手になったのを見て、あやさはダンスを一生懸命に頑張るようになった。
あの時の俺の選択は間違ってなかったと思えて今でも安心している。
その時、言われたあやさの言葉を思い出したのだ。
「下を向いてる人がいたら、兄にが歌を届けてあげて!! 兄にの歌は、皆を元気にさせる力がある!」と。
あやさ……ありがとな。お前は、もう忘れてるかもしれないけど。俺が歌を歌ったら気持ち悪って今なら言うかも知れないけど……。
俺は今からこの場にいる女子達にあの時あやさに歌った歌を届けようと思う。
―――ガチャッ。
今度は、ドアを閉めずに俺は重い空気が漂う室内に入る。そして、電話をとり「歌を歌ってもいいですか?」と店員に確認をとった。
「はい……。追加ですね、わかりました」という台詞を聞いた後俺は、タブレットをぽちぽちと操作し始めた。
俺の歌で、この空気が変わるのかはわからない。けれど、俺にできるのは
これしかない……。本当は、歌いたくない。だけど………。
景谷守は、この時自覚していなかった。自分が歌を歌った事がトリガーとなり、後に更なる波乱を引き起こすということを。
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