第16話 陽キャ達とカラオケ②(改稿)

「一人、一曲は必ず歌うように!! これが、いつものルールだから!!」


 ま、まてよ………。これ歌うの強制なのかよ……。ずっと観戦決め込もうと思ってたのに! 水壁が「あっ、一つ言い忘れた事あった!」なんて、言い出して俺の歌わない作戦は失敗に終わってしまった……。


 曲を入れていくタブレットが、歌を入れ終わった人から順に右へ右へと渡されていく。


 やばいやばいやばいやばい。


 安藤玲も藍川真美もこの場にいる俺以外の人全員が全く動揺していなかった。


 唯一陰キャサイドに感じた氷野も平然としている……。


 くそっ。お前だけは……信じてたのに…。


 段々とタブレットが近づいてきた。どうしようどうしようどうしよう。


 パニクっていると。


「はい。次、貴方で最後……」


と、氷野が無表情で、タブレットをこちらへ渡してきた。


「…………」


 無言で、俺はタブレットを受け取り冷や汗がとまらなくなる。


 歌うこともそうだが、何が一番やばいかって……俺がアニソンしか分からないという事だ。


 しかも、高音系のマイナーな奴。


 万人受けするアニメの曲はサビしか知らなかった。どうしよう……。


 俺が曲選びに悩みかねていると、


「一曲目なんだからー、そんな時間かけんなっつーの!! 時間なくなるじゃんかー!」


 俺のことを無視し、安藤玲と藍川真美に真っ先に声を掛けた人物が文句を言ってきた。やばい……。誰か助けて……。そう願っていると、


 ―――バンッ!!


と、勢いよくドアが開かれた。


「はぁはぁ、ごめん。遅れた!!」


「神室さん!!」


「癒しの神室ちゃんが来た!!! ほんっと、みずっちどんな裏技使ってこんな美女達を集めたんだ?」


「まぁ、ちょっとね」


「このこの! 教えろやーい!!」


 ふぅ……助かった。まさか、お前に助けられるとはな。神室美沙。


ほんっとナイスタイミングで来てくれたよ。

正義のヒーローだよ。。俺にとっちゃぁな。


神室美沙の登場で、緊張感漂っていた空気が変わった。。

 今、男子達は仲良くジャレ合っている…。


女子はっ………て、何だ。何故だ。安藤玲どうして神室美沙をそこまで睨む…。

なんか理由でもあんのか? 険悪な雰囲気に持ってくのはやめてくれよ?


「じゃあ、神室さん。席にって。席ないじゃん!!」


いや、今気づいたのか……水壁。お前も意外とおっちょこちょいなんだな。


詰めろ!! って言われても無理があるだろう。あと一人分座る席を作るのには。


どうすんだよ……。そう思っていると、神室美沙はこんな事を言い出した。


「あっ! 大丈夫だよ! 席ならあるから!!」と。


いや、ないだろ。ってなんだ? こちらにテクテクと少女は近づいてきた。。

詰めろってか?どう考えても無理だろ。

どうするつもりだ?そう思っていると、


「えいっ!」


と少女は、俺の膝の上に座ってきた。


「「「「はぁぁぁぉぁ!!」」」」


水壁以外の男子から、そういう声が上がる。いや、それ俺のセリフだから……。


それにしてもこれは、やばい…。何がって? 色々と……だ。

プニプニとした感触が足へ、鼻からは、柑橘類の甘ーい香りが感じられた。


 足にずっしりと重みがかるが、むしろそれがいい………って何言ってんだ!

俺。しっかりしろ!


 周りから、ビャービャービャーと騒ぎ立てられるかと思ったのだが、最初のはぁ??? だけで後は何もなかった。


 まぁ、凄い目で睨まれてしまっているのだが。


 それから、安藤玲。あんたが一番怖いよ。その薄っすら笑みを浮かべながらの睨み顔、まじでホラーなんだからな。。

 

 藍川真美は今回は笑っていなかった。目を見開き、信じられない物を見たといった感じだった。なんか、こっちはこっちでいつもと違うから反応しにくいな……。


水壁の方は、何故かうんうんと一人頷いていた。何納得してんだよ……お前は。


隣の少女はずっっと無表情だった。


結局、穏やかな空気にはならないんだな。凄い眼をとばされ、再び緊張感が漂ってきた。


「はよー! 選んで! 時間がなくなる!!」


「あぁ……」とそう言いタブレットの操作を再開する。

 すると、俺の膝の上に座った少女は私が先に選ぶ! そう言って、俺からタブレットを取り上げてきた。


 ポチポチと、操作し曲を入れる音が聞こえる。何を入れたんだ??? 少し気になったがこれ以上鼻に、良い匂いじゃなくて香りを嗅ぐのはまずかった為、何を入れたのか見ることができなかった。


「はい。景谷くん!」


 そう言われ、俺はタブレットを受け取る。もうどうにでもなれ精神で、J-POPの全然知らない曲を入れた。


 俺が入れ終わったのを確認してからか、水壁はシャッフルを押してっと言ってきた。シャッフル? なんだそりゃ。


 首を傾げていると、水壁は説明をしてくれた。


「シャッフルしないと、曲入れた人順から歌っていく事になるだろ? それじゃあ、ちょっとね。緊張感がないじゃん。曲をバラバラにランダムで入れ替える事で誰がいつ回ってくるか、わからなくなるわけさ!! そこにシャッフルって言うボタンがあるはずだから押してくれ」


「あぁ……」


 ほんとはそんな緊張感味わいたく無いが、否定せず素直に肯定しシャッフルボタンというのを押した。

 

すると、大きなテレビ画面『萌えキュンキュン❤️貴方の心へズッキュンフレーバーパラダイス』と、いう曲名が出てきた。


 誰が、萌えアニメのアニソン入れたんだよ。こんな場所で、こんなの歌えるとか勇者だろ……。


 俺はジト目で画面を見てそう思った。周りは、


「うわっまじかよ。誰だよこんなの入れたの」

「キモすぎねぇ。流石に。こんなの入れれるとか頭大丈夫なのかな、ははははは」


と。嘲笑うかの様な目でこちらをチラチラと男子達は見てきていた。


 安藤玲も嘘でしょみたいな顔でこちらをチラッと見てきた。


 俺じゃねぇっつの。誰だよ、こんなん入れたの……。こんなボロクソに言われて名乗り出れんのか曲を入れた人は……。ん? 何だ??


 足に何か違和感を感じた……。ブルブルブルと俺じゃない誰かの足が振動しピクピクとこちらに伝わってきていた。


 おい、まじかよ。そんなの俺の間近にいる人に決まっている、神室美沙だ。

 彼女は足をビクビクと震えさせていた。


 「おーい! 名乗りでてくれやー、始まんねぇじゃんこれじゃあよ」


 「「「はははははははははは」」」 


 仕方ないな。幸いにも、このアニメのアニソンなら知ってる。多分、歌える。


 名乗りでれる者の中で一番ハードルの低い者は間違いなく俺だ。みんな、俺の事を陰キャとして見てんだから。神室美沙に今日は一回助けられたしな。

まぁ、本人は何のことか分かってないと思うが……。


皆が嘲笑ったり、戸惑ったりしてる中。俺はビシッと手をあげこう言った。


「俺……だ。萌えキュンキュン入れたの」


それを聞くと、周りの男子は


「「はははは。わかってるよ! そんなことお前しかいないだろ……こんな、、、

 曲入れる奴とか、はははは」」


「どうしてそんな曲入れようとおもったんだよwwwww。頭おかしいんじゃねぇの?」


俺は、この問い。どうして、この曲を選んだのか、それだけは相手に疑心を与えない様に自信を持った口調で言わなきゃならんと思った。だから、皆が見る中で、

俺は、こう言ってやった。


「俺は陰キャで……っゆ、ゆ、ユエタンがたまらなく

 好きだからだぁ!!!!」と。


 この場にいた殆どの人物は、腹をかかえて嘲笑い馬鹿にしてきたが。


 数名の人物は、彼らとは対照的な反応をしたのだった。


♦︎♢♦︎


やっぱり、あの時から何も変わってないや

守君………。


 あなたのその自分を盾にして、相手を救うという行為……。ホント、何も変わってない。陰で人を助け、

陰でひたむきに努力する……。。

あなたのその姿は、、本当に美しい……。。

私が、超えられないと思ったのは貴方くらいなんだから…ふふっ。



彼のあんな姿を見てしまったら、、

玲、神室さん貴方達には絶対に負けられなくなったわ。

 

覚悟しといてね、守くん!


♦︎♢♦︎


 なんだよ……。まぁ、神室は助けてやったから、そんな蕩けたような表情するのはまだわかる。けどな、氷野、いや特に藍川。お前ら、何うっすら温かな笑顔を向けてきてんの??


 いっそ、冷たい目で見られる方がこの後歌いやすいんだけど。はぁ。

 歌いたく無い。景谷守は、萌え萌えキュキュンな歌を嫌々歌うことになったのだった。

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