第21話 チャラ男と約束する

 「ちょ、ちょっと景谷くん!

  待ってよ。

  話があるんだってぇ!!」


 「………………。」


カラオケが終わってからの、翌日。

俺は朝早くから、困らされていた。

一人のチャラ男少年によって。。

今、俺は廊下で早歩きをしている。。

この男から逃れるために。。


「ちょ、ちょっと、

 昨日の件覚えてるだろ?

 デートの話だよデートの!」


知るかっての。

場所を弁えているからか、彼は藍川真美という名前は出さなかった。

 それは、非常に助かるのだが……

俺にその話を振ってくんな…

それと、追いかけてくるな…。


しかも、昨日のカラオケ代を俺に押し付けたくせに、お前という奴は

よくも、悪気なく平気で話せれるよな…。


そんな事を思いながら、

俺は彼を無視する。。


「景谷君。 

 そんな逃げないでくれよ。

 君、デートなんてしたことないだろ?

 だから、恋愛経験豊富な俺が

 服装とかさー、プランとか組み立てるの

 協力してあげようと思って。。

 ってちょっと、だから逃げないでくれ!」


デートは、そもそも行く気がないんだよ…。

俺は………。

藍川真美も俺と、デートなんぞは

行きたくないだろ…。


表向きだけ、デートした事にしとけば……


そう思い、着々とスピードを上げ

あっちへ来たりこっちへ来たりしていると

それに、しつこくついてくる水壁は

こんな事を言い出した。


「あっ。

 ちなみにだけど、

 デートしないのは、許さないからね?

 景谷君…。。


 もし、君がデートを拒むなら…

脅すようで申し訳ないけど…

 ……ね…。」


な、何だよ。

何する気だ?

水壁の声が

いきなり優しい声から冷たい声に変わったので、俺の歩みは一度止まる。。


恐る恐る彼の方を振り向くと、

彼は、こちらに急速に歩み寄ってきたので

俺は殴られるのか?そう思ってしまい、

ギュッと目を瞑った。


しかし、

どこにも痛みを感じなかったので、

何もされてない?

とそう思ったのだが

耳に何か違和感を感じた。


目を恐る恐る開くと

俺は、水壁にイヤホンをはめられていた。


爽やかな笑顔を向けた彼は、

スマホをポチポチと

弄る。


何か音楽でも聞かせるつもりなのか?

でも、一体何を??


そう思ったのも束の間………。

俺の疑問を払拭するかの様に

歌が耳に流れ始めたのだ。

それも最悪なかたちで……。


「ズキュン!ハートへ〜萌えの楽園〜

 可愛いのはあったりまえ!!

 皆が、天使なのに萌えないだって?

 そんなのあっりえません!〜〜〜

 

 ……………………………………………

 ユエタン!!ラッブリー!!

 わはっ!」と。


そう。

「萌えキュンキュン❤️貴方の心へズッキュン

フレーバーパラダイス」が俺の耳に流れてきたのだ。


普通にこの歌を聞くのなら、なんて事はなかった。けど、今回聞かされたのは訳が違った。

なぜかって?それは、流れてきた歌声が


俺のものだったからだ。



俺は、耳の中で響いてくる自分の歌声を聞いて顔が青ざめた。。

そんな、俺の表情を見て

水壁は、俺にはめていたイヤホンを外し

こちらをニマニマした笑顔で見てきた。

そして、一言。


「察しがついたと思うけど。。

 昨日の君の歌、録音させてもらったよ。

 それで、脅し?みたいになっちゃうけど、

 デート行かないんなら、

 申し訳ないけど

 クラス全員に流すよ…この歌を。。」


目の前で笑みを絶やさないチャラ男は

俺を奈落の底へ突き落とす

発言をしてきた。


ははは、冗談だろ……。

冗談だと言ってくれ…………。。

この歌をクラスメイトに聞かせる??

そんな事されたら、

次の日から、俺はいよいよ学校に行けなくなるぞ……。。

俺は、

絶望的な表情を浮かべていただろう。

そんな俺の様子を見つつ

彼はある提案をしてきた。


「大丈夫だって。

 景谷君!!

 僕の言うデートプランそして、服装とか

 何まで従ってくれたら、、

 君の身には何も起こらないし、

 何なら、この歌を削除するよ?」と。


え?水壁何て言った??

歌を消してくれるって!!!

黒歴史に入るであろうお蔵入り確定の

歌を消してくれるという発言に俺は

興奮を隠しきれないでいた。


「わかった。今すぐにでも消してくれ。

 お前の言うデートにも行くし、

 プランにも従う。。

 だから、絶対にそれを消してくれ。」


あまりの勢いに、水壁も少し引いていたが

すぐに、


「わかった。ちゃんとデートに行ってくれる

 なら、約束通りこれは消すよ。」

と、言ってくれた。


 ほ、ほんとうか?そう思った矢先に

 自分の前に大きく色白な手が差し出される。

  「はい。約束ね。」

と、水壁がそう言って。。


  「あぁ………。」

そう言って、

俺は差し出された手をぎゅっと握った。


互いに目を合わせ、

俺は「この歌を消してもらえる……」と安堵していると


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


と、チャイムが鳴り響いた。


「って、やべっ。

 景谷君。。。

 ここからじゃ教室着くまでに

 間に合わないよ!!

 僕たちいつの間にか

 4階来てるし!!

 とにかく、急ごう。。」


 「あ、うん。」


はぁはぁはぁと息を切らしながら、

男子二人は廊下を走り、

階段を数段飛ばしで、降りていき

教室へと駆けていく。


間に合うのか?否、これは絶対に間に合わない。。

それが分かっていながらも、俺たち二人は

ダッシュで教室へと向かうのだった。




そんな男子が二人急いで走る様子を見てた

窓際廊下側の席である

一人の少女がいた。


冴えない方の男子を見て

彼女は言う。。


「君の歌声はやっぱり良い。」と。







 

 

 










 











 


 

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