第7話 "陰キャぼっち"元気をだす(改稿)

「お姉ちゃん! ダンスが先なのー!!

 ね! ゆうきくん、こっちきてー!」


「さやね……。本当に申し訳ないけど、今回ばかしは譲れないの! 景谷くん!! こっちへ!」


 このやりとりが、さっきから3分程続いている。

 あの、俺帰っていいですか??(二度目)


 さっきから、腕が痛すぎて割とマジで帰りたいんだが。


 今もなお、俺の取り合い合戦を目をバチザチとさせながら、二人は行なっている。


「はぁ」


 俺のため息が漏れた時二人は、何か思いついたのだろうか。引っ張られていた俺の腕が突然

解放された。


 ん? なんだ? え、帰れんの? ってか帰っていいの? よっしゃ!!


 と思ったのも束の間……。


「ゆうきくんは私とお姉ちゃんどっちがいいの?」 


「ここは、景谷くんの意見を尊重する ということになったから。で、と、当然私よね?」


 目を輝かし、自信満々気なさやねに対し目が不安げでオロオロとし、いつもとは違い言葉に覇気のない安藤玲。


 対照的ともとれる二人が俺に、意見を求めてきた。


 うん、最初からそうしてくれよ。これが本音であったが、ここは目を瞑ろう。


 二人の内どちらを優先させたいか……か。


 悪いが、俺の優先したい方は最初から決まっている……。


「安藤玲…いや、アンダーさんを俺は優先したい……」


「えっ?嘘でしょ。ゆうきくん!! 浮気しないでよー!」


「よ、よかった〜……………」


リビングにいた、俺達三人であったが、さやねは、「ゆうきくんの浮気者〜」と叫んで、二階に飛び上がっていった……。


 悪いな。さやね。また、ダンス後で教えてやるから。


 さてさて。じゃあ…。お話しようか、アンダーさん、っておい。さやねが二階に行ったことで、二人きりになったわけだが。いきなりどうした。


「ごめん……ごめんね……。わ、私は貴方をいっぱい傷つけた」


 彼女はそう言いつつ、涙を流しながら、俺に抱きついてきた……。


 当たってる……。何がとは言わんが、柔らかいものがあたってんだよ!


「わ、わかったから。とりあえず、席ついて落ち着こう……な」


「ぐすん、うん」


 それからリビングの席に向かい合う形で座ると、彼女は唐突に話をきりだした。


「私は、こんな事今更言ってもだけどあなたの悪口を言うのが、たまらなく嫌だった……最初からね。実はね、私、高校デビューをしたの。そのきっかけとなったのが……あってね。それは中学の時の酷いいじめ……。だから、あなたの悪口を言うのに罪悪感で胸が押しつぶされそうになった。つらかった。みんなの前では、ヘラヘラと元気そうに振る舞ってたけど、心はずっとボロボロだったの。貴方を助けたかった。

けど、私が貴方を擁護したら、また、私は中学の時の様ないじめにあってしまうかも知れない。そう思うと、怖くて怖くて…………。

動けなかった………。貴方は、私の"最高の友人"なのにね……。たくさん傷つけてしまった。本当に…ごめんなさい…………って、何で景谷君が泣いてるの?」


 あれ? 自然に涙が出てきた……。

 そうか……。アンダーさんに裏切られてない事がはっきりしたからか……。


 目の前の彼女……。

 嘘をついている! とはとてもじゃないけど言えない。涙をボロボロと流しながら、それでも必死に思いを伝えようとする姿。そんなの見たら、今まで悩んで苦しんでた俺が馬鹿みたいに思えた。ネット友達そして、ゲーム友達ではあっても"親友"には変わりなかったんだ。

その事実を思うと、涙が溢れ出した。

 

「で、でもね。もう安心して……。クレードと一緒なら私なんでもできると思うから。だからね、あなたを…………。だから、もう大丈夫だから。クレード。私とこれからも"親友"でいてください! ぐすん」


 ところどころがゴニョゴニョしてて何言ってるかわからなかったが、親友でいてくれ?

何を言うんだ……。それは、こっちの台詞だ……。


「あ、あぁ……。これから、改めてよろしく、

アンダーさん。いや、安藤玲」


「うん。ぐすん。本当に今までごめんなさい。

 そして、クレードよろしくね、いや、うーん、と、守くんっ」


 ドキッとしてしまった…。いきなりの下の名前呼び。あ、やべー。顔が赤くなっちまう……。


「安藤玲、なんて呼び方なしでしょ。親友なんだから、 下の名前で……」


 小声で言っているつもりだろうが、ばっちし聞こえてるぞ。しかし、れ、玲? だめだ。恥ずかしすぎて呼べねぇ。そうこう思っていると

腕時計を見た、彼女はある提案をしてきた。


「なんだかんだでもう6時30分来るね。これまでの謝罪とこれからの関係性の確立に感謝の意を持ってご飯食べにいかない?」


 その提案は魅力的かも知れないが、今日はちょっとな……。色々とありすぎて疲れてしまった。また、今度にしてもらおう。


「ごめん、今日はちょっと……」


「わかった…… また今度行こうね……それじゃあ、また明日学校でね」


 ご飯の誘いを断っただけなのにすごく、気分を落としてるな……。これで元気がでるかわからんがやるしかないっ!


 外に出る前に。恥ずかしいがよし! 言おう。


「うん…… それじゃあ明日学校で…………

れ、玲」


めちゃめちゃ、恥ずかしい……。やばい。


 チラッと彼女の方を見てみると、表情を一変させ学校では見たこともない、破壊力抜群の笑顔をしてきた。


「うん!! それじゃあね。気をつけて。守くん!!」


 『あぁ』とだけ言って、俺は外に出る。帰宅途中、恥ずかしさは拭えなかったが俺はずっと胸が高鳴り、気分はいつになく最高になっていた。


 ———デレンデレンデレンデレン


 高揚感に浸っていると突如、妹から連絡が入る……。


 クソ兄貴! お腹減った。あんた、今日当番でしょ! はやく帰ってきなさいよ!!


 ふっ。今日は、あいつの好きなハンバーグでも作ってやるか……。

  

 俺は、妹からの連絡の後、家から一番近いスーパーへと足を運び始めるのだった。

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