第6話 "陰キャぼっち"これからどうなる?(改稿)

 すぐに話が終りますように。面倒事が起きませんように。穏便に話がすみますように、などなど。


 様々な事を願い、重い足取りの中、俺は五階の屋上へとたどり着いた。ガチャっと年季の入った扉をあけるとまぁ、案の定、安藤玲はすでにそこにいた。


「ごめんね。急に呼び出したりして。今朝も言った通り貴方に聞きたいことがあるの」


「別に特に用事はないから構わない……。それで、俺に聞きたいことって?」


 少し無愛想に感じたかも知れない。でも、仕方がないだろ。俺が彼女に対して強くあたってしまうのは……。


 それとなんなんだよ。

 安藤玲! 体をもじもじさせながら頼み事をするんじゃない。こっちが恥ずかしくなっちゃうだろ。


「あのね……。景谷ゆうきって人知ってる??」


「え?し、し、し、知らないよ」


「明らかに動揺したじゃん! 絶対になんか知ってるでしょ。お兄さんかなんかなの?」


「………………」


「ほら! やっぱ何か知ってんじゃん」


 「………………」


「あのさー、ずっと黙られても……。 で、実際どうなの?」



 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……。



 『ゆうき』という単語が脳内に入った途端、頭の中が真っ白になっていく。


 話があるってこの事か。いや、普通に考えたらこの話題しかないよな。この場で嘘をついて……って流れにしようと考えたが、こいつには、妹がいる。その場しのぎの嘘をついてもどうしょうもない。


 なら、いっそ打ち明けるか……。俺がクレードと。

 いや、打ち明けたら後々、面倒な事になるに決まっている……。


 ここは、逃げるしかないな。


「ね、ねぇ。人の話聞いてる?? ってちょっ! なんで逃げるのよ! 待ちなさい!! 景谷くーん!」


 はぁはぁはぁはぁ。


 とにかく、今は全力疾走で逃げろ!! 階段を数段飛ばして、猛スピードで、靴箱そして、昇降口へと向かっていく俺。


 もう、安藤玲とは関わらない! これからは、無視という方向性で!! 追ってきたら、逃げるという方針で!!!


 そう胸に誓い、追ってきた安藤玲を引き離し、校門を出た。。


  ふっふっふっ! 逃走成功だ!!!


と思ったその時だった。


「あー! もうー!遅いよ!! ゆうき君! ダンス指導! 今日もやってもらうからね!」


嘘だろ……さやね……。なんで…このタイミングで……。俺は呪われてんのか??


 ブレザーの袖を掴まれ、俺の逃亡はあと少しのところで失敗に終わってしまう。


 後方でポニーテール赤髪の美少女の姿が確認できた。


 終わった。ははは。


「はぁはぁはぁ。やっと追いついた。もう逃がさない! ってさやね、どうしてこんなとこに?」


「それは、ゆうき君にダンス指導を今日もしてもらうため!!」


「………………………………………」


「あっそうなの。で、ゆうき君を待ってたと。」


「うん!でも、もう来たから早く帰ろっ! お姉ちゃん!!」


「もう来た?? ってどこにいるのよ彼」


「何言ってんの…お姉ちゃん。私の隣にいるひとだよ、この人がゆうき君だよ!」


「え? ってええええええええええ。ほ、ほ、本当にぃ?????本当に、彼が?????」


「声大きすぎだよ、お姉ちゃん。でも、うん」


「そ、そ、そうなんだ」


 さやねがこの場にいた時点でゲームオーバーなのは、確定していたので俺はもう面倒事が起こるのは、覚悟の上でずっと無言のままでいたのだが。


 あ、あの。何ですか?? いきなり、俺に近づいてきて……。



 安藤玲は、俺の方へ歩み寄りかがみこんで俺の顔をじろじろと見てきた。


 不意に彼女と視線が合うと。


「ほ、ほんとだーー!!!!!!」


と、叫びこんだ。


 あ、あぁ! もううるさい……。

 クラスメイト達が、校門付近にいなくてよかった。

 これでいたら、ほんと想像しただけで、鳥肌が。


「お姉ちゃん。声でかすぎ!」


 はっ! と自覚したのだろう。顔をみるみる赤く染め、彼女はあわあわと口を震わせていた。


「と、とにかく! 景谷くん!! 後で、じっっっくりと話をしましょう!」


「は、はい」


 いや、結構です。これが俺の素直な気持ちだが、彼女はクレードにはなしたいことがあって、色々な気持ちを伝えたいのだろう。何の話もせずに関係終了!! っていうのは、若干俺も気が引けてきた。あの時の俺は、目先のことしか見えてなかったな、ほんと反省反省。


「じゃあ! ゆうき君! お姉ちゃん。家に帰るよ!!」


「うん」


「あ、あぁ」


 俺と安藤玲は歯切れが悪く、ぎくしゃくとした雰囲気で安藤家へと向かうのだった。


♦︎♢♦︎


「うーーん。屋上での収穫はなしか……。これからの、玲次第かな。私が表だって行動するのは……。明日学校、楽しみね……ふふふ」


 屋上の隅っこで隠れていた少女は、

一人、今後の方針を定めていたのだった。


♦︎♢♦︎


「え〜。お姉ちゃん!!! ダンス指導が先だって! ゆうきくんこっち来て!!」


「悪いけど、さやね! 今はどうしても彼と話さなきゃいけないことがあるの!景谷君! 分かるでしょ! こっちへ来て!!」


 俺は、安藤家についた後、二人に両腕を引っ張られていた。


 痛い痛い……。腕、ちぎれる。勘弁してくれ。


 なぁ。神様、俺なんか悪いことでもしたのだろうか。


 不幸続きでいい事が一つもないんだけど。



 安藤姉妹に腕を引っ張られながら、この先どうなってしまうのか、不安で不安で、俺はたまらなくなっていた。

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