第17話 陽キャ達とカラオケ③(改稿)

「〜〜~」


 前奏が流れ始め、歌詞が画面に浮かびあがった。


 『ズキュン! ハートへ〜萌えの楽園〜』と。

 

うぇっ……。自分がこれ歌うのか、改めて歌詞を見ると低音の俺がこれ歌うってはっきり言って気持ち悪いな……。


 水壁を含むこの場にいる俺以外の全ての男子が、クスクスと笑っていた。


 そりゃ、笑えるよな。普通は低音男子が歌う曲じゃないし……。


 無言で歌わないでいよう! と一瞬思ったのだが、それだとあまりにも格好がつかない。


 ヒロインのピンチに駆けつけてきたヒーローが、敵をいざ目にすると

逃げ出す様なものだ。


 それは、あまりにもださい………。


 天秤にかけると、歌わないでいる事よりもプライドのほうが勝った。


 俺は、ゆっくりと目を瞑る。視界に誰一人として入れたくなかったからだ。

 そして、俺は全てを無にして歌い出した。


「『ズキュン! ハートへ〜萌えの楽園〜』可愛いのはあったりまえ!! 皆が、天使なのに萌えないだって? そんなのあっりえません! 〜〜〜ユエタン!! ラッブリー!! わはっ!」


 ははは。終わった……。色んな意味で。歌い終えた俺はゆっくりと目を開け、

周りを見渡す。


 すると、皆が口をポカンと開けて唖然としていた。


 あれ???

  もしかして、俺の低音とこの曲が合ってなさすぎるせいで、皆放心しちゃったのか??


 歌が下手と言う線は無いと信じたいぞ! 昔、よくダンスと一緒に練習してたからな。


 俺が、キョドリ始めると。


「パチパチパチパチパチ」


 と、神室美沙が拍手をしてくれた。それに続いて、藍川、安藤、そして何故か

氷野……つまりこの場にいた女子全員が


「「「「パチパチパチパチパチ」」」」


と、盛大な拍手をしてきた。


んん? あれ?? 何か想像してたのと違う反応だぞ……。ほら男子の誰か、非難してくれてもいいんだぞ?? 無反応が一番こたえるからな。


 すると、水壁はふふっと何か企んでるかのような仮面被りの営業スマイルをして

女子同様に拍手をしてきた。


「ククッ。お前さん歌、相当上手いんだな。想像以上だった」


「…………………くそっ」


「ぬぬぬぬぬ」


「………………………」


 みつるは、俺の歌を褒めてくれたが、他の男子達は皆が下を向き何かをボソッと言っていた。小声すぎて、俺の耳には届かない……。

何か俺やらかした? そう思い少し不安になるが、俺はこれで歌わなくていい。その事実が、俺の心をなだめてくれた。人前で歌うのはやっぱり苦手だな。心臓に悪すぎる……。

 アイドルの人達って、ホント凄いよなぁー。あんな大勢の人達前にして、歌えるんだから。


 そう思いながら、俺は自分の席へとテクテク歩いて戻った。

 俺の席には、神室美沙がすでに座っていたのだが俺が席につこうとすると、どけてくれた。

 

 腰を下ろして、席につくと少女は先程同様に、俺の膝の上に座ってきた。


  えいっ! と言って……。


 ホントこの子高校生か?? ついつい疑ってしまう程の幼さを感じた。


 まぁ、ここからは観戦だ……。目の前の少女に気を取られなければ、

多分大丈夫、多分な……。


 俺が席についた後は、周りの面子がそれぞれランダム形式で歌い出した。

 

 歌の感想なのだが、女性陣は二人がとても美しい音色だった。特にボーカロイドの曲をセレクトした藍川の歌なんて、プロ並みに上手く聞き惚れしてしまいそうになる位のレベルだった。


 それと、氷野。こいつもだ。こいつもこいつで、凄く歌が上手だった。


 藍川そして氷野お前らアイドルなれるぞ!!


 安藤玲に関しては……まぁ、うん。上手いと思ったけど、二人が上手すぎたので特に感想が見当たらない。


 神室美沙に関しては申し訳ないが論外……。


 俺が適当に入れたJ-POPの曲を凄い棒読みで歌ってたんだから……。皆、俺が歌い終えた時と同じ様に、固まってたな……。


 上手いも下手もない。ただ、歌詞を並べて読んだだけなんだから。

 知らない曲でリズムやテンポが分からなかったのかも知れないけど、あまりにも酷すぎた。


 そして、俺以外の男子陣……。


水壁はアイドルなっとけ! それが感想だった。要は普通に上手かった。


それから、俺を小馬鹿にしてきた男子2人組は可もなく不可もなくで普通だった。


 みつるはダンディな声をしてるからか、熱血のパワフルな曲選択とマッチしていたこともあって、凄く上手く感じられた。


 ちなみに、最後に歌った人はみつるだ。


 皆歌い終わったし、帰ってもいいだろ。そう思ったのだが、俺の考えは無慈悲にも打ち砕かれる。


「はい! それじゃあこれで皆一曲ずつ歌ったということになったね。二周目! といいたいとこなんだけど、ここからは……王様ゲームをやりまーす!」


と、水壁が言い出したのだ。


 いやいやいや、帰らしてくれよ。それに、王様ゲームって。参加したら、絶対ロクな目に合わんだろ、はぁぁぁぁぁ。帰りたい。あたりを見回すと、肩をガクッと下ろしている人は全然いなかった。


「よっ! 待ってました!! カラオケで歌歌うのなんて前菜みたいなもんだしな!俺たちにとっちゃぁ! ここからがメインだぜ!!」


「ふぅぅ! やっとこの時が来た!!さぁぁて、と。俺の運今日ついてるかなー?」


 など。男子陣はウハウハ気分になっていた。


 女子も女子で、楽しみそうにしていた。


「王様ゲームなんて久しぶりだなぁ! たまにやるならありだよね」

「ふふっ。玲すごくやりたそうじゃん。まぁ、私もやりたいかな」

「王様ゲーム? 何よそれ。楽しそうね」


 など。一人の女子——氷野をのぞいてはしゃいでいた。


 氷野、今回は味方になってくれたか。そう思い、彼女の方をもう一度見ると

彼女と不意に目が合った。


 すると、皆がはしゃいでる中、氷野は、また俺に耳打ちをしてきた。


「意気地なし…なんて言ってごめんなさい。

 貴方はその……私の恋愛対象内だから」

と。


 いや何、顔を若干赤く染めてそんな事言ってんの??

 それに、それ……俺に言う??普通…。

あなたの事気になってます! 宣言だよそれは。そう思うと俺まで顔が赤くなった。

すると、彼女はさらに俺に追い討ちをかけてきた。耳元でこう囁いてきたのだ。


「シャイな人…嫌いじゃ無いよ。可愛いんだね。君」


 それだけじゃない。俺の耳を少し甘噛みしてきたのだ……。

 

「なっ、なっ、なっ」


 慌てる俺であったが……心の中で確信していた。


 この女子、氷野は文学少女の清楚タイプなんかじゃない。


この女子は、ただの小悪魔少女だと。

 

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