第9話 "陰キャ"でも頼れる奴は一人いる(改稿)

やばい……しんどくなってきたぞ……。

 

「待ちやがれー!! はぁはぁはぁ」


 向こうも息を切らしてきているが距離がだんだんと近づいてきた。くそっ。なんで、俺がこんな目に……。

でも……目的地まではあと少し。ガラの悪いチンピラに追いかけられること5分間……。


俺はずっと重い荷物を持ったまま全力疾走していた。人と出くわすということはこういう時に限って全然なかった。


なんでだよっ!?


♦︎♢♦︎


 それにしてもしつこいな……。ここまで、走れば諦めもつくかなと期待したのだが。


「ね、ねぇ、ねぇ!!! だんだん近づいてきてるよ!!」


「も、もう少し……なんだ……」


 息も絶え絶えになってきたが、次の曲がり角を曲がれば目的地に到着する。残りの体力を全て使い切る勢いでダッシュし、目的地へとたどりついた。


 急いで、戸を開け


 ————ガラガラガラ


「はぁはぁはぁはぁ。助けてくれーー!!! ゴーケン先生ーーーー!!!!!」


 俺はありったけの声を出し、ゴーケン先生、

俺が昔通っていたダンス教室の先生の名を呼ぶ。


「あぁん! なんだぁ?? 誰か練習しにでもきたのか??」


 あくびをしながら、大男が部屋の中から出てきて頭をポリポリとかき俺そして、少女の前にあらわれた。俺の方を目をこすりながら、驚いた表情をし、こう言ってきた。


「って守じゃねぇか!!どうしたんだ??? ダンス復帰すんのか??」 


「そんなことより、今は」


「今は??」


 ————ガラガラガラガラガラ


 先程閉めた戸が開かれる。


「はぁはぁはぁはぁ、もう逃さねぇ」


俺と少女を追いかけ回したガラの悪い男が、鬼の様な形相で睨め付けてきた。少女はさっきから、いやこの空間に入った時から、ガクガクと肩を震わせながら、俺の手をギュッと握っている。


でも、もう安心だ……。ゴーケン先生の元へたどり着いた時点でチェックメイトなのだ。


「あぁん! なるほどな。守、説明不要だ!!

なんとなく分かった……。オメェが俺のとこ来た理由がな。このチンピラを黙らせりゃいいんだな」


 俺はコクコクと頷き、少女を引き連れ、ゴーケン先生の背後へと回る。


 さぁ。決闘が始まるぞ!!いや、決闘とは言えないか……。一方的になるのが目に見えてる…。


 チンピラ、ご愁傷様です!!!


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ貴方はぁ!!!!!」


 あれ? ゴーケン先生の姿を確認した瞬間

柄の悪い男、チンピラがガクガクと震え始めた。


「あっ……オメェどこかで」


ん? 知り合いなの??? ゴーケン先生とこのチンピラが?? 接点なんてなさそうだけどなぁ……。


チンピラ男は、ブルブルと震えたままの状態で、俺の方に引きつった笑顔を向け、こう言ってきた。


「ご、ごめんね。悪ふざけがすぎたよ。も、もう関わらないようにするから、もちろん、お嬢ちゃんにも」


 え、今さっきの威勢はどこいったよ……。

 凄い冷や汗だな。それに、チビってないか? チンピラは忍び足で戸に手をかけ——


「すいませんでしたー!!!!!!」


 と叫んで、その場を後にした。


「なんか見たことある面だなと思ったら……あっ!! 思い出した!! 前にうちの門下生、最年少のリナちゃんを泣かした野郎だ!! あの野郎懲りずにまた!!」


 いや、もう遅いよ、ゴーケン先生。


「あれ? あいつは、どこいったんだ??」


「もう、でて行ったよ。自分の世界に入り込む癖直ってないんだな。先生」


「っち! でていきやがったのか! それと、

 お前も、俺に敬語を使わない癖直ってないぞ!!」


「これは癖じゃない……」


「ったく! オメェだけだぞ! 俺に敬語を使わねぇフレンドリーな人間はよ!!」


 ククっと笑ってきて、俺も自然に笑みが溢れる。ほんとこのおっさん、いや先生は昔と何も変わってない。


「ところで、あのチンピラ、あんなにビビってたけど一体何したのさ。ゴーケン先生?」


「聞きたいか???」


「いや、いい」


 手をパキパキとさせながら、犯罪者の様な薄気味悪い顔してきたのでここは聞かない方がいいだろう……。


 今さっきから気になっていた少女の方をチラッと見ると、無表情になっていた……。早く、ここをでた方がいいよな……。

 ゴーケン先生は、顔面が怖すぎて普通の人は無表情でロボットの様になってしまう。馴れてしまえば、なんてことは無いのだが。門下生の人たちは、先生の顔に馴れているから、怯えたりって事は少ない……。俺は少女の方を指差し、ゴーケン先生に———


「今日はありがとう。本当に助かった。もうちょっと話できたら、とも思ったがな」


「あぁ! 分かってるよ!! お嬢ちゃんの神経すり減らしちまうからなぁ。俺がいたら……。今度くるときゃ、ダンスしに来いよ!!」


 コクコクと頷き、戸を開け俺はダンス教室を出て行く。


 帰り道、少女はずっと無言のまま俺の手をギュッと掴み続けていた。側から見たら、彼女にでも思われてしまうのだろうか……。


いや、違うな……小さな妹の面倒でも見てると思われるのだろう。

そんな事を考えていると、さっきのスーパーのところまでたどり着いた。よし、ここまで来ればもう大丈夫だろ。


手を……ってうん?? 手を離さないぞ。この子……。しかも、まだ無表情、貫いてるし。

そんなに、怖かったかゴーケン先生……。

 でも、これじゃラチがあかない。

 俺は、ここで初めて帰り道で少女に声を掛けた。。


「あのさ……手。もう帰れるだろ?? あのチンピラもう絶対来ないと思うし」


「…違くて……れない」

「何て??」

「一人じゃ帰れない」

「理由はゴーケン先生の顔か?」

「……………」

「と、とにかく……一人じゃ家に帰れない」


 でもこの子の家までついていくのは、ちょっと遠慮したい……。


 帰った時、妹に殺されかねないからな。


「ごめん…… 。でも、ちょっと、もう帰らないといけないから」


「いやいやいやいやいやいや!!!!」

「いやじゃない!!」

「いやいやいやいやいやいや!!」


 あー。もうこれじゃループしてキリがない。どうしたものかと思っていると少女は意味わからん事を言い出した。


「じゃあ…貴方の家に行かせて……」


「は、はい???」


 さっきよりも、力強く俺の手を握りしめ、絶対に離さない…という決意をしたように思えた……。


 ———デレンデレンデレンデレンデレン♪


 妹からもう何度目か分からん連絡がきた。


『あと、5分………。5分以内に帰らないと……

どうなるか………根暗兄貴にならわかるよね、ふふっ』というメッセージ。


俺は一気に顔が青ざめた。ゲーム……ピンチの予感……。もうなり振り構ってられない、走り出しながら……


「わかった……家まで来てもいい……」


 そう言い、疲れ切った体に再びスイッチをいれ、全力疾走を開始する!!!!


 今日は走ってばっかだな………。波乱過ぎない? 今日。


 景谷守は、全力疾走で自宅へと駆け出す。ひゅうひゅうと風を感じる中、小さな少女は独り言の様に呟く。


「貴方は教えてくれそうにないから……名前を………。貴方の名前……それからその他にも

色々と…………」


「何か言った??????」


「ううん……」


「悪いが…ペースあげる。」


 妹よ! 亜弥よ! はやまるな!!

 俺、すぐ帰ってそしてすぐに飯作るから……

頼む……はやまらないでくれ。


 俺はそう妹に懇願する事しかできないのだった。

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