第33話 陰キャぼっちの苦難
「ふぅ………い、行ったみたい。
ご、ごめん。か、景谷」
「い、いや気にしないでくれ」
あれから、ものの数分で水壁達は去っていった。どうやら試着したのは一枚だけだったぽい。
ほんとに色んな意味で助かった………。
里島は今俺の体から離れ、顔を真っ赤に染め上げ下を俯いている。
俺も頬をぽりぽりと掻き、恥ずかしさを拭いきれない。
そこから、数秒間の沈黙が続いた。
あまりの恥ずかしさから、お互い口を開くことはできなかったのだがその沈黙を破ったのは、彼女の方だった。
数秒後に意を決したのか里島もといクラス委員長は、両手で頬をパチンと叩いたのだ。
うわ………痛そう。
絶対に頬が腫れるやつだ……。あの、威力は……うん、間違いない。
まぁ、頬がすでに紅潮してるから腫れてるのか腫れてないのかは判断つかないけども……。
たまに、気合いを入れるためにああやって
頬を叩く人を見るんだが……俺から言わせれば理解不能だ………。
気合を入れるも何も、痛いだけじゃん……。眠気覚しなら、まだ分かるが………。
「ん? 何???」
目を細めて彼女を見ると彼女は少し遠慮気味に訝しんだ視線を送ってきた。
「あぁ、えっと
落ち着いたらでいいんだけど………さ。
試着室から出てくれない??」
「あっ………ご、ごめん」
俺が言った刹那、彼女はすぐに試着室を飛び出していった。
彼女が試着室から出た直後、
「はぁぁぁぁぁぁ」と俺は熱い吐息を漏らし、その場に膝をつく。
し、死ぬかと思った…………。
胸の高鳴り……といえばいいのか、平静を装っていたが実を言うと心臓がバクバクだった。
心拍数上がりすぎて、おかしくなる一歩手前といった感じだったのだ。
水壁の野郎………ゆ、許せんぞ。
これは、ただの八つ当たりだ。正直言って全く水壁の方に非はない。けど、許せ水壁。
お前にしか、怒りの矛先をぶつけられないんだ…………。
トントントンと小さな力で試着室の鏡を叩きながら俺は心を落ち着かせる……。
「ふぅ……」それから1、2分程で俺は気持ちを落ち着かせることができた。
ダンス経験者の気持ちの切り替えの速さは
伊達じゃないぜ…………。
心の中でドヤ顔を決め込む俺。
だけど……なぁ……。
俺は、試着室の中にある大量の服に目を向けるとため息が止まらずに出続ける。
試着が一つも終わってないんだよなぁ。
ただでさえ、里島の抱きつきハプニングで
俺のメンタル削られたってのに…………ここからまたメンタルが削られるのか……はぁ、いやだ。
俺は、そこから重い体を起こし服を拾い上げ試着を嫌々するのだった。
♦︎♢♦︎
それから、1時間後————
「これと、これが良いかな……」
「お……おう」
何枚も試着した俺であったが、
里島は、時折頭を抱えながらも、服とズボンの組み合わせを選び抜いてくれた。
ようやく………終わった。
最初の方(1着目、2着目を試着したあたり)はまだ里島の方に気恥ずかしさがあって、会話もロクにできなくなかったからな。
服を何着も着ていくうちに、気恥ずかしさがなくなっていき、段々と里島にもどかしさがなくなっていったのだが…………
それでも、1時間かかったか………。
正直言ってかかりすぎだろ……………。
まぁ、俺に付き合わせて、向こうの時間を割いてるんだ。文句は言ってられないよな……。
俺が内心でそう思っていると、
「やっぱり、景谷には黒が似合うわよね……」
と、俺をまじまじと見つめながら彼女はそう言った。
「ど、どうも」
独り言だったかもしれないが、そうじゃなかったら向こうに悪いので、こちらも呟く感じでそう返す。
「じゃあ、この二着を買うわよ………
お金あるんでしょ???」
「え? あ、あぁ………。金なら今日はたくさん持ってきてるから安心してくれ」
そう言いグッドポーズをとった俺。
それに対し、彼女は「そう」と言った後、
続けて言った。
「なら、行くわよ……レジに」
「お、おう」
金あるぜ! と堂々と啖呵を切った俺。
だけど、うん。ほんと衣類って高いね。
もう所持金の半分ぶっ飛んだんだけ
ど……。
♦︎♢♦︎
「ね、ねぇ………お腹空いてない??」
俺の服を買い終わった後のこと。
俺から話しかけようか、かけまいか迷っていた時に、里島からいきなり尋ねられた。
「そ、そうだな。お腹空いたな」
本当は、お腹減ってないけどこういう時は
空いてるって言った方がいいらしい。
ギャルゲーでそういうのがあった。
「そ、そうよね! なら、あそこの店行かない?」
「あ、あぁ………」
分かりやすい奴……と言わんばかりに顔を明るくさせた彼女。
早く! 早く! と言った感じで里島は俺の手首を掴み店へと走り込む。
里島ってこんなキャラだったか?
神室美沙と変わらん少女ぶりを発揮してないか? いや、だいぶ俺に気を許したと見ていいのか………。
なんて、そんなことを思っていると、
彼女は、突然歩みを止めだした。
何か、あったのだろうか………。
すっかり固まってしまった里島の背中を見て、俺は首を伸ばして前方を見る。
すると、里島がフリーズしてしまった訳が分かってしまった。
あぁ………そういうことかよ。
全く………最悪の展開だ………。
「あれ? 里島さんに、ゴホッゴホッ
か、景谷ぃ!?」
「景谷って美少女連れ込みマシーンの
あの景谷かよ! みずっち」
水壁、人の顔を確認するなり咳き込むな。
まぁ、気持ちは分かるが…………。
それと、充………。誰がマシーンだ。人間だ! 機械にするな俺を。
それと、誰が美少女連れ込みだ…………。
まぁ、この状況下だと否定できないが………。
そう。そんな訳で、俺と里島は最悪なことに水壁と充に、思わず遭遇してしまったのだ………。
これは、詰みルート突入だな………。
開放的なまでのデパート内に置かれたファストフード店。
ガラスなどで覆われていないため店内の様子は外から常に丸見え状態。
そんなとこへ、彼女は俺を引き込んで水壁達がいるとは、知らずに突っ込んでしまったのだ………。
何がまずいのかと言えば……この場に俺がいることだ……。
はぁ……どうしたものかな………。
目の前でフリーズした里島の背中に目をやりつつ俺は、その場で大きなため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嘘コクの方と天使で小悪魔〜の方もよければ
見てください!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます