第29話 陰キャぼっちの夜ご飯

「何なんだよ…」


気づけば俺はそう口にしていた。

今、俺は肉と野菜コーナーで絶賛買い物中

なのだが…。


「芸能人だよ…あれ絶対。

 話しかけてみる?」


「えー。無理だって。」


 「ちょ、ちょい、あの制服から

 するに、華奈峯第一高校でしょ。

 あんなイケメン男子いたんだ…。」


 「「「ざわざわざわざわ。」」」



スーパーに来たはいいものの

俺の事をチラチラと

見てはコソコソと話す。といった人が

増出していた。


何を言っているのかは

小声すぎて聞こえなかったが


人から多くの視線を向けられ

コソコソと話されるというのは

少なくとも俺にとっては

気持ちの良いものではなかった。


「はぁ…」


俺は大きなため息をつきながら

スマホで時刻を確認する。


19時10分だった。


亜弥のやつ。腹空かしたかな。


俺は自分の帰りを待っている

かもしれない妹の事を考える。


すると、ちょうど

亜弥から連絡が入った。


『兄貴……。

 今日、友達のとこでお泊まりする事に

 なったから…』


一見すると…普通の文章。

なんて事ないメッセージ。


だけど、俺はこの文面から

亜弥の機嫌の良さを悟った。


いつもなら、クソやら

根暗やら、兄貴の前に余計な言葉を

つけるからだ。


亜弥の奴。

ここ最近はずっと機嫌悪かったけど

良いことでもあったんだろうな。


「了解」

俺は、そうとだけ入力し

妹に返信した。


それにしても、亜弥の奴。

お泊り…か。


友達の家にお泊まりなんて

俺は、

いつからしてないだろう…。


なーんて、

そんなことを思いながら

周りからの視線を無視し

俺は歩みを進める。


亜弥が、泊まるんだったら、

わざわざ料理する必要はない…。

人の少ない店で一人

ご飯でも食べよう…。


と、そういう訳で

俺は何の買い物もせずに

外に出た。


♦︎♢♦︎


歩くこと数分。

運がいい事に俺は

お客さんが少なそうな

自分にとってとても

理想的な店を発見する。


小汚さのある小さなラーメン屋だった。


俺は一人、

自動式ではなく手動式の

古びた戸を開ける。


すると


「いらっしゃいーー!!!!」と


中に入ると、一人の店主から

大きな声が掛かった。


店内はすごく寂れてて

先客が、一人いるだけだった。


ぺこりと軽い会釈だけして、

俺は角のカウンター席へと座る。


俺は座った後

メニューは…と思いメニュー表を探す。


が、どこにもそれらしき物がなかった。


「え?」と少し動揺の色を見せると

味噌のいい香りが、鼻にプーンと漂ってきた…。


どうやら、店主は料理し始めたらしい。


けど、一体誰の?


先客のおっさんがラーメンを食べている

様子を見るに、誰の料理を作っているのか

俺は全く合点がいかなかった。


戸惑いの様子を見せた俺は、

辺りをキョロキョロと見回す。


すると、そんな矢先に

古びた戸が再び開かれた。


「いらっしゃいー!!!!!!」


店主の大きな声が再度店内に響き渡る…。


お客さんが来てくれた……。

ふぅ、これで注文の仕方が分かるぞ…。


俺は、

そう思って入ってきた客の方を

チラリと横目で見る。


「えっ。か、貝坂。」


気づけば俺はそう口にしてしまっていた。

そう。俺の視界に入ってきた人物。

この店に入ってきた人物というのは

俺の悪口を言う女子の代表

貝坂美幸だった…。


「へぇー。私の事、知ってるんだぁ❤️

 隣いいかしら?」


 「…………………。」


普段の貝坂からは聞けない

甘ったるい声を聞くと共に

俺は、自分の失態を嘆く。


な、なんで、あの時

貝坂なんて言っちまったんだ。


どうするよ…これ。

俺、この事態、収拾できそうに

ないんですが……。


俺は冷や汗を垂らしながら

確信する。


どうやら、神様は

俺にもの凄く意地悪らしい。

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