第25話 麗が…

 〇桐生院知花


 麗が…

 すごく…何でもないような事を問いかけるように、あたしも…恐らく瞳さんも聞いた事がないであろう事を、母さんに問いかけた。


 …麗は笑顔だけど。

 どこか…『ほら、言いなさいよ』みたいな、挑戦的な視線にも思える。



 母さんが桐生院に来て、最初は母さんに冷たかった麗も…

 その愛すべきキャラに心を開いてからというもの…もしかしたら、あたしよりベッタリだ。

 麗は…本当のお母さんに溺愛されてたけど…

 その愛情は、色んな事があって…少し歪んでいたのだと思う。


 だから、母さんみたいに真っ直ぐな愛情は…麗にとって心地良かったのかも。

 麗の笑顔は…あたしも嬉しい。

 陸ちゃんと結婚してからも…色々あったものね。

 苦しい想いも悲しい想いも越えて、今麗は、心からの笑顔だと思う。


 …けど。


 その笑顔で…聞く⁉︎麗!!

 みんなが聞きたくても聞けなかった事の…スタート地点!!



「…えーと…」


 母さんはキョトンとしたまま麗を見て。


「どれもこれも記憶がないって言うのはなしよ。嘘ついたって分かるんだからね。」


 母さんが何かを言おうとした所で…これまた麗が笑顔で言った。


「な…何が嘘よ…」


 母さんが怪訝そうな顔をすると。


「母さん、気付いてないかもしれないけど…嘘つく時って、クセが出るのよ。」


「……」


 麗にそう言われた母さんは、麗をじっと見つめた後、あたしと瞳さんを見た。


 あたしは知らないわよ?


 首を傾げてそうアピールすると、隣で瞳さんも同じようにした。


「さ、早く。教えてよー。」


 麗の追及は続く…

 その時…


「待って。」


 瞳さんがストップをかけた。


 …そりゃあそうだよね…

 自分の父親と…違う女性の出会いなんて…

 いくら昔の話だとしても…


「まず、あたしの出会いから話すわ。」


「……えっ?」


 あたしと麗と母さんは…三人で丸い目をした。




 〇東 瞳


「まず、あたしの出会いから話すわ。」


 あたしがそう言うと、三人が同じような丸い目をしたもんだから…


「ぷっ…」


 つい噴き出してしまった。


「え…何かおかしかったですか?」


 知花ちゃんが丸い目のままで…ああ…もう、可愛いなあ。


「ううん…三人が同じような顔したからおかしくて、つい…」


 あたしはそう言った後、コホン。と小さく咳払いをして…


「あたしと千里が出会ったのはね…」


 背筋を伸ばして言った。

 すると…


「えっ!?」


 また…三人が丸い目をさらに丸くして、さらには大声も出すもんだから…


「あははは!!もう、三人共最高!!」


 あたしも…大声で言ってしまった。


「だ…だって、瞳さん、アズさんじゃなくて…そこ?」


 知花ちゃんが戸惑った顔で言って。


「瞳ちゃんと千里さん、付き合ってたの!?」


「瞳さんと義兄さん、付き合ってたの!?」


 麗ちゃんとさくらさんは、同時に叫んだ。


 …あ。

 まずい。

 …いや、この際だから…


「知花ちゃん。」


 あたしは、知花ちゃんに向き合って肩に手を掛けた。


「な…何でしょう…」


「まず、最初に謝るわ。」


「…謝る?」


「あたしの事で、千里とケンカしたでしょ。」


「……」


 知花ちゃんはあたしを見てた視線を、ぐるりと上から下まで一回転させて。


「…えーと…む…昔過ぎて…」


 小さな声で言った。


「あの頃、あたし彼氏なんていなかった。」


「…え?」


「千里には、あたしの片想いだったの。」


「……え?」


 知花ちゃんは『え?』しか言わなかったけど、片想いってワードにそそられたのか…


「えー、聞きたいっ。」


 麗ちゃんが楽しそうに言った。


「でしょ?出会いはねー、スタジオナッツの隣にある雑貨屋だったの。」


 あたしはそこで、圭司のためにバンソーコーを買ってた千里に一目惚れした事。

 そして…ボイトレをしてくれってせまった事。

 何とか彼女になりたくて頑張った事…を、正直に話した。


 知花ちゃんはずっと…瞬きをたくさんしながら聞いてる。


「でもね、あたしの事は彼女にしたくない、友達になる気もない、ライバルになりたいって言われてフラれたの。」


「うわ~…義兄さん…真面目…」


「で、あたしはあたしで見返してやるつもりでアメリカで頑張って…ちょっと帰国したら…」


 知花ちゃんの首をグイッと抱き寄せて。


「出来てたわけよ。彼女が。」


 そこでようやく、さくらさんが両手で口を押えて『きゃ~!!』なんて…女子高生みたいなリアクションをした。





 〇桐生院知花


「出来てたわけよ。彼女が。」


 そう言った瞳さんが、あたしの首をグイッとして自分に引き寄せて…

 あたしは少し…照れてしまった。

 瞳さんは、あたしの…腹違いの姉。

 だけど、こんな風にスキンシップ取る事なんて…今までなかったし…


 それより…

 あたしと出会う前の事、妬いても仕方ないって…あの遠い昔、思い悩んでたけど…

 …付き合ってなかったなんて…


「ね、千里があたしと付き合ってるって言った?」


 至近距離で瞳さんに言われて。


「う…うん…」


 つい…敬語じゃなくなった。


「あれもねー…千里ってバカ真面目って言うか…」


 瞳さんは小さく溜息をついた後。


「あたし、最初に押せ押せだったから勝手に千里を彼氏だって父さんに紹介しちゃって、引っ込みつかなくなったからそのままにしといてくれってお願いしたのよ。」


 すごく早口で…恥ずかしそうに言った。


「…え?」


「で…ちょっと重い告白になっちゃうけど…」


 そこから瞳さんは…

 周子さんが結婚された元旦那さんに…アメリカの自宅で周子さんと共に暴力を受けていた事。

 それで…千里を頼って帰国した事…

 その話を聞いた時、あたしの脳裏には色々辻褄が合うあれこれが浮かんで…


「ごめんね…って一言で片付けちゃいけないよね。ああいう誤解もあって…知花ちゃんは千里と別れる決断をしたんだろうし…」


 瞳さんは、ずっと…あたしの首を引き寄せたまま。

 耳元で聞く瞳さんの声は、レの音が高原さんに似てるな…って思った。



「でもね。今だから言える事ではあるんだけど…あの決断があっての現在よ。」


 瞳さんの手が…あたしの頭を撫でる。


「って、あたしが言っちゃいけない事なんだろうけど…でも、あの誤解もスパイスとして効いてたって事で…」


「……」


「…ね?」


 ね?って、目を合わされて。

 あたしは…初めて瞳さんを…

 初めて…

 あ、お姉さんだ。


 って…思えたのかもしれない。


 あの頃はあの頃で辛かったけど…

 でも千里が桐生院に来てくれてからは…ずっと幸せだし。

 むしろ…暴力を受けてた事を…過ぎた事って告白出来る瞳さんを…すごいって思った。



「で、圭司とは…まあ、千里にフラれた後の流れって言ったら悪いけど、そんな感じかなあ。」


 瞳さんの手が離れて、それをちょっと寂しいと思ってしまった。


「旦那さんとの出会い、略し過ぎー。」


 麗が笑う。


「ほんとほんと。」


 母さんも…笑う。


 本当はみんな、瞳さんが暴力受けてた話で…笑えないって思ったのかもしれないけど。

 瞳さんが…それを越えてるのが分かったから…

 瞳さんが笑うから…



「…じゃ、あたしも…」


 あたしは、背筋を伸ばして言った。


「あたしと千里が出会ったのは、最初に結婚して暮らし始めたマンションの内見会。」


「あれ?義兄さんのナンパじゃなかったっけ。」


 麗がワクワクしたような顔で言うと。


「千里…あたしをふったクセにナンパしたんだ…」


 瞳さんは少しトーンを落とした後。


「冗談よ。」


 あたしの肩を叩いて笑った。


「最上階の角部屋のドアを開けたら…そこに千里がいて。こんな素敵な所に住んでみたいって言ったら…『叶えてやろうか』って言われたの。」


 こんな告白…自分がするなんて思わなかったけど…

 何となく…瞳さんの真意が読めて。

 あたしも告白した。


「千里、あたしをフッておいて…」


 瞳さんの低い呟きは続く。


 あたしはそんな瞳さんに、笑顔で言った。


「それで…その日から、あたし達の契約が始まったの。」


「…契約?」


「あたしと千里…最初の結婚は…お互いの条件を満たすための結婚だったの。」


「……」


 瞳さんは目を丸くして麗と母さんを見て。


「…え?」


 どっちにともなく、言った。


「懐かしいなー。父さんが怒って勘当しちゃったんだよね。」


「私は知花本人から聞いたけど…あくまでもキッカケに過ぎないわよね。」


 麗と母さんはそれぞれそう言ったけど…


「…え?」


 瞳さんは、丸い目のまま。


「…だから、あたしも謝らなきゃ…もしかしたら、あたしと契約なんてしなかったら…瞳さんと千里、どこかで繋がってたかも。」


「……」


「……」


「…ぷっ…」


「ふふっ。」


 あたしと瞳さんはお互いを見つめて…少し吹き出して。


「昔の話よね~!!」


 同時にそう言って…笑った。




 〇二階堂 麗


「あたしは、公園で海君に抱きつかれて…あ、陸さんの甥っ子なんだけど。」


 あたしが瞳さんに説明するようにそう言って。


「その海君に抱きつかれて転んで捻挫して、二階堂の本家に運ばれて…あれがキッカケかな。陸さんに少しドライヴに連れて行ってもらって…カッコいい人だなーって。」


 ツラツラと思い出を掘り返して言うと。


「あっ!!」


 母さんが大声を出した。


「あれ!?あの日!?陸さんに車で送ってもらって、お姫様抱っこで玄関まで運んでもらった…」


 あ。そっか。

 あの日、そう言えば母さん…


「そう。あの日。母さんがジャージ姿でどこからか帰って来た日。」


 あたしがそう言うと、瞳さんが目を細めて自分の姿を見下ろした。

 あ、ごめんなさい。

 瞳さんもジャージ姿だった。


「陸ちゃん、王子様みたい。」


 姉さんが頬杖をついて、嬉しそうに言った。


 …そうよ?

 陸さんは、あたしにとって王子様よ。

 ま…もうお互い年は取っちゃったけどさ…

 でも、捻くれたお姫様だったあたしを、豪快に笑いながら外へポーンって放りだすみたいに…

 ちょっと手荒な王子様だけど…


 おかげであたし、小さなことはどうでもいっか。みたいな気持ちも持てるようになったし…


 そりゃあ、辛い事や苦しい事はたくさんあったけど…

 パートナーの事を自分の王子様だって思える自分が、何より幸せだなって思うあたしがいる。

 でもそこには…姉さんが義兄さんと育んできた愛を目の当たりにしてきた事や、母さんが真っ直ぐにあたしに愛を伝えてくれた事が大きく関係してる。


 …もちろん家族みんな大好きだけど…

 この二人には、本当…絶大な感謝しかない。



「それで…あたしから猛アタックしたの。」


「えっ!?」


 それには三人が驚いた。


 あ~面白い。

 こういうの、誰にも話した事なかったけど、こんなに驚かれるネタが自分にあると思うと、他にも何かないかなあなんて思っちゃう。


「麗が肉食系だったなんて…」


「てっきり陸ちゃんからだと…」


「麗ちゃん、家宝は寝て待てってタイプに見えるのに…」


 それぞれにそんな事を言われて、ますますあたしは楽しくなった。


「最初は楽しそうに相手してくれてたんだけど、ちょっと色々ゴタゴタして怒鳴られちゃって。」


「うんうん。それで?」


 …母さん、女子高生?

 て言うか、知ってる?

 この後、告白するのは母さんよ?


「泣きながら歩いてたら……高原さんにバッタリ。」


「あら。」


「へえ。」


「……」


 そこでの三人の反応はそれぞれ。

 高原さんの名前が出ると…母さんは何気に顔から表情を消す。


「それで…こんな顔で帰りたくないって言ったら…マンションに泊めてくれたの。」


「…それって、もしかして…千里が下手な嘘で誤魔化した『麗は友達の家に泊まるって言ってた』って件?」


 姉さんが母さんに向かって言う。


「そ。あれ。なんだ…義兄さんの嘘だってバレてたんだ…申し訳ないな。」


 思えば…高原さんは、あの頃からあたし達桐生院家、みんなに優しかった。

 姉さんの家族だからって言うのもあるのかもしれないけど…

 そういう理由でみんなに優しく出来るかな。

 それに、優しいだけじゃない。

 厳しくもしてくれた。


 最初は苦手だったけど…あたしは何度も高原さんに助けられた。


 …だから、母さん。



「泊めてくれた上に、次の日はエステと買い物にも連れて行ってくれたの。」


「まっ、娘のあたしにもしないような事。」


 瞳さんが唇を尖らせて。


「昔の話だから。」


 あたしは笑顔でそれに返す。



 母さん。

 そんな、みんなを大事にする高原さんを…

 今度は、母さんだけを大事にする高原さんに…戻してあげてよ。





 〇桐生院知花


 出会いの告白なんて新鮮だなあ…って、あたしが笑顔で聞いてると。

 母さんは話しが進むにつれ…唇をアヒルみたいにしたり、食いしばったり…

 自分も告白しなきゃいけないの~?って顔なのかな?



「で、お見合いの席に陸さんが乗り込んできて…」


「えー!!すごい!!ドラマみたい!!」


 ほんと、あれはドラマみたいだったなあ…

 だから余計、麗からの猛アタックだったとは思えない。

 あの席で麗は何だか怒ってたし…



「ねえ、ソファーに移らない?」


 瞳さんがスフレのなくなったお皿を片付け始めて。


「じゃ、紅茶入れ直すね。」


 麗がカップを持ってそう言った。


「私はそろそろ…」


 隙を見て母さんが帰ろうとする素振を見せた途端…


「あたし今度はさくらさんの隣~。」


 瞳さんが母さんの腕を取って、半ば無理矢理ソファーに座った。


「で?父さんとはどこで知り合ったの?」


 …瞳さんが、まるで自分の母親に対して聞いてるみたいに聞こえて。

 あたしは麗と紅茶を入れながら…顔を見合わせて小さく笑った。

 母さんはあたし達を一度チラッと見た後…


「…全部…思い出したわけじゃないのよ?本当に…記憶がない部分もたくさんあって…」


 らしくない、しどろもどろな感じで言った。


「全部話せなんて言ってないわよ。それこそ泊まり込んで話してもらわなきゃいけなくなるじゃない。」


 麗が紅茶を運びながらそう言うと、母さんは麗に『もうっ』と小さく言った。


 麗は瞳さんの隣、あたしは母さんの隣に座って。


「ナンパされたの?」


 麗がそう問いかけると。


「………ぶつかったの。」


 母さんが、話し始めた。


 …正直…ドキドキした。

 母さん…話してくれるんだ…


「ぶつかった?」


 瞳さんが聞き返すと。


「ええ…私は急いでて…走ってる最中によそ見して…それでぶつかって転んだの。」


 母さんは相変わらず小さな声で…ボソボソとしゃべった。


「その相手が父さん?」


「……」


 母さんは返事の代わりに、コクコクと頷いた。


「…転んだ私に手を差し出してくれて…いい人だなって思った。」


「母さん、それっていくつの時?」


 麗が瞳さんの向こう側から体を乗り出すようにして言うと。


「…いくつ…いくつだろ…よく思い出せないけど…アメリカにいた時…14とか…15とか…」


 母さんは額に手を当てて、思い出すような仕草をしながら言った。


「え?そんなに若い頃にアメリカにいたの?」


 そう言えば…あたし達、母さんの生い立ちを知らない。

 ただ…孤児だった…って事しか…




 〇桐生院さくら


 なっちゃんとの出会いを麗に問いかけられて…

 そうしたら、瞳ちゃんが…まさかの千里さんとの出会いを告白。

 ついでに。みたいな感じで…本当は決して笑えない辛い出来事も告白…


 それを聞いた知花は、自分は千里さんと契約結婚だった…って暴露。

 だけど二人は『昔の事よね』と笑い合った。


 つられたように麗が陸さんとの出会いを話し始めて…

 もう、その頃から…もしかしてこれって、私が話しやすくするために計らってくれてるつもり…?って。

 でも私…話さないよ?って思いながらも…

 瞳ちゃんが、すごく楽しそうに私の腕を取ってソファーに座ったのが…

 …とても、嬉しかったから…つい…


「…ぶつかったの…」


 話し始めてしまった。


 だけど、私が覚えてる事と言ったら…そんなにたくさんは、ない。


「私の記憶のほとんどは…って言うか…私が、私について知ってる事のほとんどは…あの人が寝たきりの私に話してくれた事だから…」


 私がそう言うと、知花が。


「寝たきりだった母さんに…高原さん、すごく献身的に話しかけてた。」


 私の腕を触りながら…優しい声で言った。


 …そう。

 なっちゃんは…毎日毎日繰り返し…私達の思い出を語ってくれた。

 朝起きると…って、そこから始まって。

 私達がどんなふうに生活をしていたか…


 それを聞いていると、私の頭の中で…まるで映画のように映像が流れ始めた。


 あのトレーラーハウス…

 小さなキッチンで、オムレツを作るなっちゃん。

 私は隣でソーセージをつまみ食いして…なっちゃんに笑顔で叱られる。


 オムレツにケチャップでハートを描くつもりが、勢いよく出過ぎて違う物になって笑ったり…

 私の口元についたマヨネーズをなっちゃんが舐めて…それがキッカケで仕事に遅れそうになっちゃうぐらい…キスが続いたり…


 …朝から…毎日朝から…幸せだった。



「私自身…自分の生い立ちも…なぜアメリカにいたのかも…自分が歌ってた事も…ちゃんと思い出せないんだけど…でも…」


 意味もなく顔を上げた。

 すると、三人もつられたように…私の視線の先を見た。


 採光のための天窓からは、雲一つない青空が見えて。

 私達がそこを見ていると…鳥が一羽、すーっと飛んで行った。



「…でも、あの人が私に作ってくれた歌だけは…ずっと忘れずに覚えてるの…」


 あの鳥は…どこに飛んでいくのかな。

 全然関係ないけど…すごく気になった。

 たった一羽で寂しくないのかな。

 仲間はいるのかな。

 帰る場所はあるのかな。

 …夢は…あるのかな。


 私が天窓を見続けてると、三人も同じようにそうしていて。

 しばらく無言でいると…


「あ。」


 麗が声を出した。


 天窓から見える青空に…鳥が二羽になった。


「…If it's love…高原さんと母さんの歌…あれが、あたしと母さんをめぐり合わせてくれたのよ?」


 知花が…二羽の鳥を見上げたまま言う。


「え?あの曲…父さんがさくらさんに贈った歌なの?」


 瞳ちゃんも、空を見上げたまま。


「あたし…母さんのお腹にいた時…あの歌をずっと聴いてた。だから…高原さんが壮行会で歌ってくれた時…『ああ、この人があたしの父親なんだ…』って気付いた。」


 そう言った知花に。


「胎児の時の記憶を持ってる姉さんもすごいけど、そんな名曲ならあたしも聴いてみたいな。」


 麗が…笑いながら言った。

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