第23話 貴司の前で…母親から色んな告白をされた。

 〇高原夏希


 貴司の前で…母親から色んな告白をされた。


 当時聞かされていたら腹が立って仕方なかったかもしれないような事も…

 今となっては…だった。

 ただ…

 それを母親が罪としてずっと抱え続けている事が…不憫でたまらなかった。


 確かに…

 人の死に関わる事であっても…

 もう、十分背負った。



「さくらを…頼みますよ。」


 大部屋に歩いて行く途中、母親は俺の背中に手を当てて言った。

 もう…yesと答えるしか…この人を安らかにする方法はないのか…?

 俺は小さく頷くにとどまったが、母親は俺の隣で『ありがとう』と…小声でつぶやいた。



「あ、お茶入れるね。」


 大部屋に戻ると、俺達を見た咲華がそう言ってキッチンに立った。

 聖と誓は貴司の写真を選んでいて…

 千里と華音は親戚に連絡をしていた。


 …千里もすっかり桐生院の人間だな…

 ここに婿入りして何年だ?

 …頼りになる男だ。

 いずれは…ビートランドも、圭司と千里に任せたい…。


 母親は…咲華が入れてくれたお茶を飲みながら、一人一人の顔を見つめていた。

 とても…優しい目で。

 …止めたくても…止められないのは分かっていた。

 だから…言わずにいようと思っていたのに…言わずにいられなかった。

 …お母さん…と。

 まだ…生きて欲しい…と。


 それでも母親の決心は変わらなかった。

 俺には…もうできる事はないのか…?



「…さくら。」


 一人だけ離れて座っていたさくらに声をかけた母親は。


「…なあに?」


 隣に来たさくらに。


「そんな悲しい顔をしないでちょうだい。さくらは…笑った顔が一番よ。」


 さくらの前髪を撫でるようにして…言った。

 その母親の言葉に、みんなが顔を上げた。

 こんな時に…夫を亡くしたこんな時に、笑えって言うのか?と。


「貴司の大好きな笑顔でいてちょうだい。」


「…こんな時でも?」


「こんな時だからよ。」


「……」


「うちに来てくれて、ありがとう。」


「…何言ってんの…?お義母さん…」


 さくらは怪訝そうな顔で母親を見たが、母親はさくらの手をギュッと握った後…


「貴司から…色々話を聞きましたよ。もう、いいのよ。」


 意味深な事を…言って。


「さ…貴司の所に…行ってくるよ…」


 そう言って…立ち上がった。


 …心臓を…素手で握られた気分だった。



「…何だろ。母さん、父さんに何か秘密でも握られてたの?」


 麗が隣に座ってそう言うと。


「あるわけないじゃない。」


 さくらは…笑顔とも何とも言えないような顔でそう言ったが…


「…あたし…ちょっと…」


 そう言って立ち上がった。

 俺は咄嗟に…


「あっ。」


「きゃっ…」


 湯呑を倒して…さくらの足元にお茶がかかった。


「…悪いな…熱かったか?」


 視線を上げずにそうとだけ言うと。


「…いえ…」


 さくらは短くそう答えて…知花から受け取ったタオルでテーブルと足元を拭いた。


 …わざとらしかったか…?


 だが…

 今の俺にできる事は…

 これぐらいだ。

 母親が背負ってきた罪を…今度は俺が背負う。

 俺もどうせ…老い先短い。



「おい!!誰か救急車!!」


 廊下から千里の声が聞こえて…


「救急車って…」


 大部屋のみんなが顔を見合わせると…


「ばーさんが…!!」



 それからは…バタバタと慌ただしく時間が過ぎた。


「おばあちゃま!?」


「大おばあちゃま!!」


 貴司の身体に寄り添うように…母親は亡くなっていた。

 泣き崩れるみんなに…心の中で謝るしかなかった。


 一日に二人…

 桐生院家は…大事な家族を亡くした。



 …俺にとっても…


 大事な…


 とても大事な二人だった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る