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突然の発言に奴隷商人は驚きを隠せないでいた。
「旦那、手懐けられる様なもんじゃありませんよ?」
奴隷の調教にも長けている奴隷商人が言う通りでもあった。
自らもほとほと手を焼いていると言うのに、道楽の為に購入をしている貴族がどう扱えるものか。
奴隷商人は考えを巡らせ、後々に散々文句を言われ、理不尽な罰を課されるのではと思い始めていた。
「心配するな、調教などしない。
むしろ、この獰猛さが良いのだよ。
これなら猛獣と戯れるちょっとした奴隷遊戯をするのに使える。
どのくらい生きていられるか、賭け事にも使えるだろうな。」
心配する奴隷商人を余所に楽しい余興を想像し、悦に浸り始めていた。
ニヒルに笑う男に対し、貴族の考えることは常識から逸脱しているのだなっと商人はただ思い呆れる他なかった。
§
貴族の付き人である男二人が、やっとの思いで鉄格子の白い檻ごと幌付きの荷馬車へと積み込んだ。
最後尾に積み込んだ途端、荷馬車は少し左右に揺れ動き、動き始めてもいない車軸を軋ませた。
白い檻自体の重さもあるが、それ以上に中で暴れまわる中身の所為でもあった。
「では、いつもの手筈通りに向かわせます。」
「あぁ、一つ頼むよ。
奴隷と共に帰路に発つのは勘弁ならないからな。」
そう言うと貴族は付き人から麻布の袋を受けとると、そのまま奴隷商人へと手渡した。
袋からは金属の擦れる音。袋自体も大きく膨れており、少し揺れ音がなる度に形状が何度も変わる程に中身が詰まっていた。
「少し色を付けておいた。
今回は珍しいものが買えたからな。」
「え、あぁはい。それは良かったです。」
今まで気味の悪い企てにのみに笑みを向けていた貴族だったが、商人に対して笑みを見せた。
奴隷商人は男の言っている意味合いを介さず、ただ黙って手渡された袋を手早く受け取った。
だが、すぐにその重みの違いに気付き男の話した「色を付ける」っと言う意味に気付いた。
「…へへ、今後もご贔屓に願います。」
「あぁ、次は良質なのを頼むよ。」
互いに笑みを交わし、貴族は付き人と共に街道を歩き始めた。
二人の付き人のうち一人が幌の中に入り、もう一人と共に歩いた時、貴族は不意に小さく声を漏らした。
「もう潮時だな…。
二度とここに来る事は無いだろう。」
何度も通い詰めていたからか。何度と通った寂れた町並みの風景を、貴族は何処か懐かしく感じ感傷的になっていた。
通る度に気掛かりだった廃れた店の看板。
激しく磨耗し、歩き難い石張りの道。
消えていく事を惜しみつつ、同時に近い将来滅び、自身のこの町への来歴が失くなる事を喜ばしく感じていた。
「ふふ、さて。
将軍様をどう持てなそうか。」
町への興味を失いつつ、荷馬車を見上げ幌に手を掛ける。
どう時代が動く。いや、どう私が動かすか。
そう野心を燃やしながら、貴族は黒塗りの馬車へと向かうのだった。
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