19

「それで、どうするんだい?」

 大きな足音を立て、家主は服からはみ出ている長いしっぽを床でも掃除するかの様に振りながら、少女の前に立つ。

 体格さ倍以上、後ろから見る限り、家主が襲い掛かろうとしている様に見える。

 当然、少女はうなり声を上げて睨み付ける。腰を上げて先ほど暴れた時と同じ姿をしていた。

 思うに襲い掛かるよりも逃げる方が野生としては正しい判断だろう。だが、少女が逃げる様子はなかった。

 椅子の背もたれ越しに成り行きを見届ける事にした。

「勇敢なのね。

よしよし、怯えなくていいよ。」

 ゆっくり、怯えさせない様に家主はゆっくりと屈む。一瞬だけ少女は目を反らし、後方へとたじろいだ。

(やっぱ、怖いよなぁ)

 獣人、育ての親が獣であり、もしかしたら見慣れた育ての親かも知れないが、大きさが大きさだ。

 怯えない方が難しいか。

 しかし、毛深い腕を伸ばし少女の角と角の間にその大きな手を乗せて、荒くわしゃわしゃと強く撫でまわした。

「ぐっぐぅぅ!」

 撫でまわされる度に途切れ途切れに唸り声が漏れていた。

 右に左に撫でられる度に、表情がコロコロと変わっている。右に回されると白目を向き、左に回されれば舌を出して唾をまき散らしていた。

「あっはっはっ!面白い子だねぇ。

うちの子はそんなに変な顔はしなかったよ!」

「ぐぅぅっ!!」

 もてあそばれて苛立ってきたのか、唸り声を大きくさせ始めた。

 少女が手を上げないのは反撃が怖いからだろう。だからか唸り声を上げる出来ていない。

 しかし、やられているだけではなかった様だ。

「がぅあぁ!」

 少女の咆哮。家主の咆哮に比べれば可愛いものだが、一瞬だけ怯ませる程度には効果はあった様だ。

 大きな家主の手を振りほどいて、瞬く間に逃げ出した。

 椅子の陰に隠れながら、家主から遠ざかっていく。

「あらら。」

「まぁ、逃げて当然だろう。」

 自然界に身を置き続けていた少女。

 この様子から見るに、人に慣れていないどころか見た事も無いと考えて良いだろう。

 ともなれば、社会復帰は難しい。訓練、教育、しつけ…。

(俺がやる話ではないな。単純に救助しただけだし。)

 食い損ねた飯をどうするかと考えようとした時だ。傍目にじっと見つめてくる少女が映った。

 家主を避けて、大きくぐるっと回って玄関側まで逃げ延び、そのままこちらに歩み寄ってきたみたいだ。

「んで、先生。さっき聞いたけど、どうするんだい?」

「どうって、この子をか?」

 そう言えば、こう言う場合はどうすれば良いんだろうか。

「私は息子がいるから預かるのは出来ないよ。

村に預けるってのも難しいな。竜人なんていないし」

 なんだか嫌な流れだ。

「奴隷商に渡すの訳にはいかないだろう?

なら、一つしかないな。」

「おいおいおい。」

「先生が預かるしかないね。」

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