18
ややあって、一息二息と大きく呼吸を整える。
固い干し肉を引き千切りながら、深い味わいを堪能する有角の少女と、散らかるその周りを舞うホコリ。
「やれやれ、とりあえず片づけをしないとな…。」
落胆ばかりをしていられないと意を決して立ち上がり、酷い惨状の復旧に手を掛ける事とした。
少女の暴走でいくつかの椅子がなぎ倒され、蹴り飛ばされた椅子の一部は底が抜けていた。
借家だと言うのにこの調子では追い出されかねないな。
「よいしょっと…。」
重い長椅子を起こし上げ、元の位置に。均一に椅子を並び直していく。その繰り返しを少女がじっと見つめているのに気付いてはいた。
先ほどの暴走もあり、今目を合わせると襲われかねないかも知れない。
見た目は十にも満たないであろう少女だが、中身は角を持った獣だ。
(って事は、コイツ…。)
考えを巡らせている途中で、真後ろの扉が大きな音を立てて開く音がした。
この時間に来る人物を一人だけ知っている。同時に出来れば会いたくない人物でもあった。
「おっはよう!先生!良い朝だね!」
けたたましい咆哮が礼拝堂内を響かせ、体が震えた。
大声の主はズガズガと足音を鳴らしながら、まっすぐに近づいてくる。
高い伸長、がたいの良い躯体に大きな手足。
そして、毛深く長い毛並みに雄々しい顔を持った犬の獣人。ここの家主だ。
なお、勘違いされやすいが女性である。
「はっはっはっ!
相変わらず、ホコリまみれのままにしているね!
旦那が帰って来た時に驚くぞ!」
豪快に笑う家主。暑い所に暑苦しい毛玉が見る見るうちに迫ってくる。見ているだけでも暑苦しい…。あまり近づいて欲しくはないものだ。
「やっているつもりだよ。
今日も掃除をするつもりだったが…、ちょっと面倒な拾い物をしてな。」
少しのため息を漏らした後、ゆっくりと後ろに隠していた少女を見せた。
「ほぉ、随分とかわいらしい拾い物だな。」
未だに干し肉を頬張る少女。
獣人の姿を一瞥するも、怯えずに無愛想にただ固い肉を食い散らかしていった。
「それで、先生の子ではないのだろう?
隠し子ってわけでもないだろうし。」
「御覧の通りの独り身だ。
それに、角のある竜人の知り合いなんていない。」
先に直しておいた長椅子に座り、軽く説明をした。
川に流れついていた事、ただ保護しただけっと言う事を。
「なるほど、奴隷商から買い取った訳じゃないのなら一安心だよ。
ま、先生がするわけないか。」
「当たり前だ。それにコイツはどう見ても…。」
すっと目線を落として少女を見てみる。
干し肉を食い終えたのだろう、手についた肉カスを丁寧になめ取り、そのまま唾液が大量についた手の甲で髪をとかし始めた。
グルーミングのつもりなのだろう。
「野生児だ。獣に育てられたんだろう。」
「ネコのつもりなのかねぇ。」
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