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 調剤の仕事が無い訳ではないが。

 如何せん、やる気がないのでとりあえず少女の行動を観察することにした。

「これも今後のため。」

 などと独り言で言い訳をしつつ、少女の後を追う。

 その少女はと言うと…。

「がぁあ!」

 睡眠に食事が終われば運動もしたくなると言うのだろう。風が吹こうが、雨が降ろうが、外で兎に角走り回る。それが少女の日課となっていた。

 それこそ毎日飽きもせずに教会の近くを走り回る。この辺りはある意味年相応な気もする。村にいる子供達も追いかけっこをしていたしな。

(いずれかは村にも連れて行かなきゃだが…。まだまだ先になりそうだな。)

 しかし、少女は何故か教会周囲を走り回るに留まっていた。

 すぐ目の前には小さいながらも湖が広がり。教会の脇には小川が絶え間なくせせらいでいる。裏手には鬱蒼とした森もあり、そのどれも子供にとっては遊び場として、最適な場所だと思われる。

 しかし、そのどこにも少女は駆け寄らない。

 そろそろ肌寒くなり始める時期で上着の一枚も欲しくなるが、走り回るのならば涼を求めて湖畔に近寄るものと思うが。

「なにか、引っ掛かるな…。」

 少女がここに現れたのも小川から流されて来ていた。水が怖い…、とも風にも捉えられるが、身体を流す際に特に嫌がった素振りはなかった。

(単に縄張り意識が高いだけか。

若しくは見知らぬ土地には入らないのか…。)

 まだまだ解らない事が多そうだが、行動基準は大体理解した。

 寝て食べて遊ぶ。まだまだ子供な思想だ。

 それならば、

「しかし…、なぁ。」

 走りはしゃぐ少女を眺め、教会の壁に寄りかかりながら少し空を仰ぎ見た。青い空に白い雲も流れる。小鳥は優雅に空を舞う。

 …悩みの一つもなさそうな光景だ。

(…心が変わらない限り、今のままだろうな。)

 今のまま獣の生活を良しとしたまま暮らす事を望めば、いくら教育を施しても何の意味もない。

 自身が人であり、人としての生活を良しとする。

 人生を歩ませる、その一歩に誘導する事は現状では困難な話だ。

「…悪い方に考えすぎだな。」

 なんだかんだで彼女は賢い。色々な事に興味を示すし、しっかりと知識を身に付けている。

 長い目で見ていこう。これから寒くなる、色々と教える時間も取れる。

「ゆっくりやっていこう。」

 少し冷たい風が吹く。もうしばらくすれば雪が降り始めるだろう。

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銀の裏地 夢語バク @baku_yumegatari

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