41

「…とりあえず、食事か。」

 書き殴った紙を折り畳んでいると、少女が近づいてきていた。少女の徘徊が終わると決まって私の方へと来るようになっていた。

 食事の催促の仕方を少女はすでに学んでいた。

「わかっている。」

 食堂に向う私の後ろを少女も付いて来た。追随する少女は相変わらず四つ足の姿を取っている。

 これも後天的な習性の一つだろうか。何かにつけて、警戒しながらも私の後に付いてくる事が多い。

 そんな少女に私は食事を与える前にある事を行う様にしていた。 

 食堂に着くなり、 一切れの干し肉を取り出した。

「ほれ、まずは何をするんだったかな?」

 後ろを振り返ると、すでに少女は近くの椅子に腰を据えていた。

 背もたれの長い椅子にピタリと背筋も伸ばし、はたから見れば行儀の良い女の子の様だが、中身はまだまだ獣だ。

 我慢をしているのか、だらだらと涎を垂らし、まだかと言わんばかりに目を輝かせていた。

「やれやれ…、飯には従順だな。ほんとに。」

 少女の目の前に干し肉を置いた瞬間、身体を乗り出し文字通りの犬食い。机まで齧り取る勢いだ。

 …行儀等はまた今度だな。

(しかし、数日前まではアレだったが…。中々うまくいったな。)

 書物か何かで読んだ動物実験。

 食事の際に決まった事を行う。それを何度も同じ事を行う事で、食事と勘違いすると言う学習能力の実験。

 尚、その実験は餌を与える前に鈴を鳴らす。そんな単純な事だった。

 今回は応用し、「椅子に座ると肉が貰える」っと言う事を教えた。

 初めのうちは理解で出来ない為に椅子には座らず、そのまま噛み付いたり駄々をこねたりと、やられたい放題も良い所だった。

 慣れてからは素直に座るようになってくれた所を見る限り、やはり順応が早い。ここは人族であるのだから、ある種当然なのだろう。

(…それだけだろうか?)

 まだ確信した訳ではないが…。

 十中八九、少女は集団の中で生活し多少の上下関係のある中で成長をしていたのだろう。

 私の言葉をまだ十分に理解はしていないが、従う素振りはある。これは私の立場が上であると認識している事と推察が出来る。

 集団で生活をし、上下関係が明白であり、四つ足の動物にはいくつか思い当たるが…。

「狼…、そんな気がするな。」

「がぅ!」

 考察を巡らせている合間にすべて食べ終えた様だ。物足りないのだろう、机を叩いての催促付きだ。

「はいはいと…。」

 不意に思ったが、私が従者になっていないか?

 上下関係が逆にならなきゃいいが…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る