暗雲を裂き光芒が射す

40

 仕事をしながらの育児を続けて数日が経った。

 正直なところ、「大変」との一言では括れない程、常軌を逸した劣悪さを一身に受けている。心身ともにボロボロになっていた。

 しかし、その甲斐もあってか少女について幾つか判明したことがあった。

 まずは前提の通り光り物を好み、収集癖がある。与えた一室をしばらくは使わなかったが、ふと気づいた時には入り浸るようになっており、薬入れとして使用している瓶を勝手に持っていっていた。

 後程、目の前で回収すると身を逆立てて怒られた。

 これは竜種においては珍しくもない事なのかも知れない。村に在住している近類種族の蜥蜴人(リザードマン)も鉱石を集めているらしく、たまに炭鉱夫と共に洞窟へと潜ったり、時々村に訪れる商人から鉱石を買い漁ったりして集めている様だ。なお、これは蜥蜴人の妻である半妖精人(ハーフエルフ)からの証言だ。聞いた後に止めて欲しいと愚痴られた。

 半ば聞く限りでは趣味に近く、なんとも道楽的な習性なものだ。

 そして、もう一つ。これは竜種だからと言う訳ではなく…。


「…お、来たか。」

 疲れも出ていた為ではあるが、祈る神がいない事を良い事に無作法にも礼拝堂内の長椅子に寝そべっていた。神罰があればひどい目に遭いそうだ。

 そこまでしてこの場にいるのにも訳がある。

「ぐぐぅ…、あぁ…。」

 低く唸るような声を上げ、少女はのそのそと自室から出てきた。

 目を細めてうとうとと頭を揺らしながら、小さな口で大きなあくびを一つ。日が上がって結構な時間が経っているのだが、寝起きなのだろう。

 少し体を起こし、長椅子の背中越しに少女の方を向いてみた。

「がぁ?」

 すぐさま、少女は私の事に気付いた。それなりに少女の部屋からは離れているのだが、長椅子の背もたれから顔を出しただけで、私を捕捉した様だ。

 以前は臭いに敏感なのだろうと思ったが、少し違うのだろう。

 野生に身を置いていたからか、空気の変化に敏感になっていると考えられる。後天的に発達した感覚なのだろう。

(ある種の進化…、面白いな。)

 適当に今の考察を紙に起こし、一息吐く。かれこれ何時間…、少女が出てくる前から寝ころびながら書き起こしていた為に腰に鈍痛が響いていた。腰に手を当ててグッと伸ばす。

「…ぐぐぅ…。」

 少し私の奇妙な行動に警戒したのか少女は唸る。

 が、すぐに興味をなくしたのか、とぼとぼと四つ足姿で礼拝堂内を徘徊し始めた。礼拝堂の隅へと向かうと、周りを警戒する様に辺りを見渡す。そして、臭いを嗅ぐ仕草。

 一連の行動をした後、また歩きはじめ次の角へと向かい、またキョロキョロとあたりを警戒する。

 この行動も部屋に入り始めてから行い始めている。

 大方これも後天的な行動だろう。っと言うよりは人類種である以上、日課となっていなければこう言う行動をとる事はないと断言できる。

(まとめると…。

竜種の習性として今のところ確認出来たのは、光り物の収集癖。

後天的な習性としては、縄張りと野生の勘…、第六感の様なものか。)

 紙に書きなぐったこの考察。

 さて、今後の学習にどう作用させるものか…。

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