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 部屋の掃除が終わったのは日が傾き始めた頃。

 いつもの場所に居るだろうと向かってみるが、そこには居なかった。

「いない…か。」

 辺りを見渡す限りではすぐ近くにはいないようだ。

 腹を空かせて、また食糧庫にでも向かったか。

 階段を反転し降りようかとした時だ。汚れた廊下に点々と小さい足跡が残っている事に気が付いた。

 素足で走り回る少女の小さな足跡以外にも、手形がくっきりと床に写っていた。

 行先は扉の先。半開きになった扉の下にも足跡が残されている。

(暇になって散策を始めた…。

いや、習性から察するに縄張り見廻りかな。)

 等と考察めいた事をしながら扉をそっと開くが。

「何があったらそうなるんだ…。」

 同時に落胆した。

「んぎぃぎぃ!?」

 仮にもだ。

 人格が獣になるぐらいの長い月日を野生で過ごしてきた野生児。

 気性の荒さからの考えだが、厳しい環境下で暮らし、一歩踏み間違えれば跡形もなく命を失うであろう、生きるか死ぬかの死闘を繰り広げてきたであろう。

 背景はさながら灼熱の荒れ地か極寒の雪山。生存すると言う意味なら、まだ荒れ地の方が生き残れそうだ。医療面でみてだが。

 しかし、今目の前に広がる光景はなんだ。

 部屋の真ん中で、上半身をすっぽりと床へと差し込み、足をバタつかせてもがく少女。

 落とし穴に頭から突っ込み、そのまま身動きが取れなくなってしまった動物の様だ。

「何て言うか…、哀れだ。」

 少女が野生児っと言う話も、何処か遠くに

置いてきてしまった様な…。

 そんな言葉に詰まる有り様だ。

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