33

 少女が落ち着き、知育玩具の木片を積み木の様に高く並べて崩してを繰り返して遊び初めていた。

 興味をそちらに移した為、私と家主は少女を一階に置いたまま二階の私室へと向かった。

「とりあえず、これが今日の分だ。」

 半透明な小瓶に小分けしておいた、緑色の半濁な液体。木の皮で出来た籠に詰めて家主に差し出した。

「あいよ、確かに。」

 籠を受け取ると、家主は一本の瓶を長い爪で摘まみ上げた。

 瓶を傾けて、家主は訝しむ様に目を細めた。

「しかし…、相変わらずマズそうだね。」

「良薬、口に苦しだ。我慢して飲ませるんだ。」

 苦い、飲みづらい、青臭い、兎に角まずい。

 家主意外からも散々文句を言われているが、私はそれらの文句について改善しようと考えた試しはない。

「やれやれ、医者みたいなことを言うね。」

 その一言に私は眉間にしわを寄せた。

「医者ではない。薬剤師だ。」

「はいはい、薬剤師だったね。よく知っているよ。」

 私の指摘にピンと張った耳をたたみ、家主は何度も聞いたと嫌そうにそっぽを向いた。

「しかし、何度も医者じゃないと否定するけど、薬剤師と医者ってどう違うんだい?」

「医者は治療をする生業だ。

私はただ病気になりにくくなる薬を作るだけだ。」

 ぴくぴくと尖った耳を動かし、家主は訝し気に首を傾けた。

「そう言うもんか?」

「そう言うもんだ。」

 私のこだわりにあまり感心がないのだろう、話していても手応えのない会話であった。

 毎回このやり取りをしても、興味がないのか尻尾も垂れ下がったままに、ただぼんやりと緑色の薬を眺めていた。

「まぁ、分かり易く言えば、私に治療を依頼しても治すことが出来ないって事だ。

重症な時、ここに来ても良いが応急処置ぐらいしかできないぞ。」

 近くの村には医者がいない。馬車に揺られて1日半は掛かる少し大きな町に一人だけ医者がいるのだが、薬を貰う為にそんな場所へと行っていられない。

 そこで医者からの処方箋を元に、私がここで薬を調剤し出す様にしている。

 村専属の薬剤師っと言ったところだ。

「まぁ、切傷や知っている病なら、治療を施せないわけでもないがな。」

 少しだけ得意げに、鼻を高くして話してしまった。

 だからだろう、余計な一言を言った事に私は気付いていなかった。

「…やっぱり、治せるのなら医者じゃないの?」

 話がまた戻ってしまったな…。

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