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「それじゃ、そろそろ戻るよ。」
黒色の手を振り、家主は手に薬品を持て教会を後にした。
帰る手前、扉に手を掛けた時だった。
「一つ、助言だよ。子育てってのは根気が必要だ。
子供ってのは、何が危ないくて何がダメなのか、判断がつかないもんさ。
一つ一つ、根気よく教えてやりなよ。」
ケタケタと悪戯に大きな口を開けて笑い、勢いよく私の肩を叩く。乾いた音と同時にジワリと全身に振動が響いた。
「…あぁ、まぁわかったよ。
あと、さっきも言ったが食料の件もよろしく頼むよ。
意外と大食いだからな、あいつは。」
痛みに耐えながら、配給を多くするようせがんだ。
まだ食料はあるが、いつもよりも早く底を尽きるのは目に見えて明らかであった。
今もなお、遊び飽きたのか少女がねだってきていたので、硬い干し魚を与えていた。なかなか噛み切れない為にか、私の背中に隠れてずっと齧り続けていた。
「わかってるよ。
期待しときなって。」
片手に薬、片手に裁縫道具と重たげに思える荷物を軽々と腕に携えて、はつらつとした笑い声を礼拝堂内にこだませて家主は帰っていった。
「さて…。」
このあとの予定は何もない。やる気もないが。
だからと言って、時間を無駄にするのは勿体無い。このご時世、余裕な時間をとることの方が難しいものがある。
少女を洗う為に水を使いすぎたから、水汲み。夜に備えての巻き割りや部屋のそう…。
掃除は置いといて、次の新薬作りに尽力しなければならない。
「いや…、やる気が起きないな…。」
長椅子に横たわり、家主から少しだけ譲り受けたパンと干し肉を一切れを頬張る。
咀嚼する度にしょっぱく濃い肉の味が染み出す。味の濃すぎる肉汁を乾いた硬いパンが受け止め、少し柔らかく食べやすくなる。
この硬いパンと干し肉を咀嚼する度に思い返すのはここよりも大きな町に居た時のことだった。
食事一つにここまで苦労する事はなく、少し外に出れば行きつけの食事処があり、日中ならいつでも出来立ての料理が食べれたものだった。
村に行けばあてはあるが、これ以上迷惑をかけるのも気が引ける。
(大ぐらいが増えたしな…、料理の一つでもした方がよさそうだ…。)
不意に閉じた瞼は鉛にでも繋がれているかの様に、一度閉じただけで重く張り付いてしまう。
そう言えば、朝にあまり眠れなかった事を思い出した時には、意識が深く沈んでいった。
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