35
強い日差しに目をくらませ、火照る身体を休ませたく、どこか見覚えのある獣道をひた歩く。
あたりは草原が広がるばかり。地平線の先を覗き込むも、高い高木の一本さえも見つけることが出来ない。
長い草に足を取られながらただ歩いていくが、目的は何もなかった。
ただただ、後ろから暑い熱を注ぐ太陽から離れたく、逃げたく…。
(…あぁ、これは夢だ。)
明晰夢と気付いた時には暗闇に包まれていた。瞼を開いても常闇が続き何も見えない。
夜か?まだ昼間の様に暑いが…。
息苦しいく、呼吸が重い。寝返りをするつもりで力を入れてみるが思うように動かない。途端、一筋の光が目に飛び込んできた。
夕日に暮れる黄昏の色に似た黄金の輝き。眩しく目が焼ける様だ。しかし、何故か真夏の様に汗がにじみ出る。夕刻なら少しは肌寒くなっているはずだ。
「…干し肉を上げただけで、随分と懐かれたものだ。」
熱い訳も妙に輝かしく見える理由も、私の上に小さい身体が横たわっている。小さな寝息を細かく立て、腹ばいに身体の上に小さく収まっていた。
子供は体温が高いとは聞いた事がある。それを差し引いても暖炉の前に居るかの様に熱い。私の服を握る小さい手からも熱を感じる。
磨かれた金貨とも勝るとも劣らない、輝きを放つ黄金の髪が隙間風になびき、白波が立つ様に白い筋をなして棚引いている。熱くさえなければいつまでも見られるのだろう光景だった。
が、それ以前に息苦しい理由が一つ。
一際に目立つ、華奢な少女には似つかわしくない、あの巨大な巻き角。
少女は顔を横にして私の胸元付近に横たわっているが為に、巨大な角が丁度私の腹部に減り込んでしまっていた。
角先が外にそれている為、刺さらないでいるのが不幸中の幸いと言ったところだ。
「…まぁ、いいか…。」
熱く、息苦しい。おまけに重いと三重苦。
生命の危機を感じる程でないにしろ、他人を寝かせておく事はただ不愉快なだけ。跳ね除けて然るべきだった。
…しかし、不思議と嫌ではなかった。
寝返りの一つもできないが、今暫くはこのままでいいか…。
もう少し季節が進み肌寒くなった頃に、暖房代わりにと歓迎していただろうな。
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