36
三日が経った。そう、三日が経ったんだ。
野生児の少女に向かって机に行儀よくお勉強っとは言わないが、人の暮らしに必要な常識を教えるつもりではあった。
手始めに腰の曲った姿勢を正し、次に食べられるものかどうかを教える。そんな判りやすい常識を順序良く教えるつもりで色々と準備をしていた。
しかし、今何故か額に汗をかき、肩で呼吸をし、広い礼拝堂の中をひた走りまわる私が居た。
そう、少女は逃げる。
「どこ行った!」
ただ逃げるのではなく、姿をくらます。
長椅子の裏に飛び逃げたと思えば、いつの間にか祭壇に駆け上がっていたり、階段付近に逃げたり…。
今まで大自然で暮らしているだけはあり、異常な身体能力を見せつけていた。
当然の事だが年がら年中、研究台の前にいるか机に向かっているかの私がそんな神速で動き回る子供を捕らえるどころか、追いつくことさえも出来なかった。
(逃げるってより、弄ばれている気がするが…。)
辛うじて目で追う事が出来ている為に逃げた先は分かっている。暗く細い廊下を抜けた先。二階につながる階段まで走って逃げた。
§
「・・・?」
四つ足で軽快な足音を立てながら、階段を上る少女は後ろを振り返る。登って来た、ただ暗い階段が下へと伸びているだけで、耳を澄ませても臭いを嗅いでも、あの男の気配はなかった。
昨日も遊んだ。今もかけっこをして遊んでいる。少女の認識はただ一緒に遊んでくれる人というだけであった。
気ままに少女は最近気に入っている場所へと気分よく向かう。
少女にとってここが教会である事も、建物と言う概念も理解をしていない。閉じ込められていた檻よりは広い世界に居ると思い込んでいた。
あの森に帰りたいっと檻にいた時、少女はそう考えていた。
「・・・グゥ。」
少女は低く唸る。
ぺたりと腕を前にして、ひんやりと冷たい廊下の上に座る。
今はただ、森への思いよりもこのステンドガラスへと思いをはせていた。
赤に緑、青と色彩豊かな飾りガラス。神秘的な人間の女性を中心に様々な種族が周りを取り巻いていた。
種族の垣根を越え、安寧と平和を運ぶ女神。
文字の読めない少女にはを読む事は出来ないが、表題にはそう書いてあった。
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