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「ふん、しかし5番目だったか。

獣擬きの半獣人(ハーフビースト)を連れてくるとは、売る商品も尽き、経営も煮詰まり始めたと言ったところか?」

 地下室を出てまた薄暗い階段を上る高貴な男。

 ブドウ酒を飲んでいながらも、その足取りは軽く、威風堂々とも言える程に真っ直ぐ階段を上り詰めていた。

「前から言っているだろう。

獣臭いものは我慢ならないと。」

「へ、へい、流石旦那です。隠し通せませんね…。」

 奴隷二人の首に付けた鎖を手綱にし、地下室から出てくる奴隷商人は隠すこともなく、みすぼらしい歯を剥き出して苦笑いをしながら、自らの後ろ頭を引っ掻く。フケと残り少ない髪を散らしつつ、鎖を強く引っ張り奴隷を従え高貴な男の後ろを付いて登り始めた。

「発表以降、同業者も軒並み辞めていきましてね。

奴隷市なんて、あっと言う間にこの町の様に人がいなくなりましたよ。

潮時も潮時。

私も他の仕事を始めないと、生活もままならなくなりますよ…。」

「そうだろうな。」

 奴隷商人の愚痴ともとれる言い分には高貴な男もただ相槌を打つだけであった。

 高貴な男が階段を登り終え、雑多に並べられた日用品の数々が置かれた店内へと繋がっていた。

 現在の奴隷商人の主な収入源である日用雑貨の売り場だが、商品棚は閑散としておりまともに商売をしている様に思える状況ではなかった。

「しかし、労働としての奴隷がそもそも要らなくなり始めたから、制度を変えるとは聞いておりましたが。

なぜ今更なのでしょうか?

私どもの生活も危なくなると言うのに…。」

 奴隷商人とて商人の端くれ。日常品もそうだが、その商品の需要が失くなり始めたとしても、求める人は少なからずいると考えられる。

 完全に需要が消滅するまでの寸前まで商売は出来るはずだが、打ち切られてしまうのはただの疑問でしかなかった。

「ふむ、良い質問だな。」

 高貴な男は一つ指を立てた。

 自らが教鞭に立ち振るう様な口ぶりで後ろにいる奴隷商人へと問いかけた。

「キーワードとしては3つだ。

連合国家。奴隷制度の廃止。

そして、この国の止まらぬ衰退。

順で言えば、衰退、連合国、廃止の順だな。」

 高貴な男の問いかけに奴隷商人はただ呆然と立ち尽くす。彼には話している内容が何を指し、どういう意味なのかすらわからない様だった。

 それを察してか、高貴な男は大きく肩をすくめ吐息を一つ吐いた。

 無造作に置かれている古びた椅子に腰を掛けると、大きく首を横に振った。

「やれやれ。やはり君は今儲けるにはっと言う考えしかないのかね。良いかね?

この家にも使われている白い石。

これはもう近隣の山岳からは採ることが出来なくなったものだ。

それは理解しているな?」

 高貴な男の前で立ち止まり、奴隷商人はただ黙って頷いた。

「早い話が国を商売人、貴様と同じものとして考えるとだ。

主力の商品がもう出せないと言うのが、今の国の状況だ。

しかし、生活をするためには金が必要だ。

では、何を売れば良いのか?

簡単な話だ、あまり余る人材。奴隷を連合国となった隣国に売るのだよ。」

「それは今までと大差ないのではないでしょうか?」

「尤もな意見だが、少し違うのだよ。

正しく言うのなら、隣国に兵士を売るのだよ。

加勢っと言う形でね。

この国の端にある町だから、噂も入らないかとは思っているが、連合国となる事でこの国はしでに戦時下となった。

隣国は南にある国に侵略戦争を始めているが、如何せん戦力が足らずに地団駄を踏んでいるありさまだ。

廃案は兵の増強が目的であろう。

ふふふっ、しかし戦争か。

一つ領土が手に入れば、私は領主としてそこに選ばれるだろう。なんせ…。」

 高貴な男はやはり酔っているのだろう。

 機密とも取れる内容を奴隷商人が聞きもしていないが、あれよあれよと喋り続けた。

 話を聞いたところで、銀貨の一枚の足しにもならないと、聞き流しながらも気を見て水でもだそうかと奴隷商人が考え始めた時だった。

 突如、店の奥から崩れ落ちる音が鳴り響いた。

「む、なんの音だ?」

 話の腰を折られたからか、ムッとしかめっ面で音の先を睨む男。

 不機嫌な高貴な男を横目に、奴隷商人はやれやれと嘆きながら肩を落とした。

「アイツか…。」

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