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荒廃する町には似つかわしくない黒塗りの馬車が一台、石畳の通路を塞ぐように停まっていた。
銀色のたてがみを生やし、戦場でも騎馬として期待の持てるであろう雄々しくも立派な黒い馬に引かれた馬車に、それを囲う甲冑姿の男達。
兜を被り面当てによってその素顔を伺い知る事は叶わないが、その面貌は厳つく睨みを利かせ、馬車に近づく者があれば、腰に下げた重厚な剣を問答無用で振り下ろすであろう。
その惨状を想像するに易く、町に住まう住人達は馬車が停泊した時点で甲冑の男達には決して近づこうとはしなかった。
そもそも、住人らにとって甲冑の男達がこの通りに鎮座することは良くあることであり、人々は野次馬の様に群がらずとも次々と口々にした。
「またあの奴隷屋か」
その店は地下にあった。
ボロボロの民家に隠された地下への階段。
角灯のみで薄暗い階段を抜けると、赤い絨毯の広がる個室へと繋がっていた。
茶褐色な革張りに金縁をあしらい見た目にも高級な椅子に肘掛け程度の高さの机が一式おいてある部屋だった。
ただ、目の前には白く部屋の隅も透けて見える程の薄いカーテンが一枚、椅子と部屋の奥とを分断する様に引かれていた。
「これで終いか?」
椅子には男が座っていた。
ブドウ酒を片手にカーテンの奥を見据えながら一言呟いた。
見た目優美な服装をしており彫り深い顔立ちの男は退屈げにブドウ酒を傾けて一口に飲み干し息を吐く。
ブドウ酒を堪能しての息か、溜め息だったのかは定かではないが、男は続けざまに口にし始めた。
「近年…いや、ここ数ヵ月で随分と質も量も減ったものだ。
やはり、法案か?店主よ。」
白いカーテンの手前にも一人の男。
椅子に座る男とは対照的で綺麗とは言いがたく薄汚れた小汚ない服装の男。
問いに対して、目を左右に泳がせ手遊びをする様は、如何にもばつが悪く触れられたくない事柄であったことがかいま見えていた。
「い、いえ。旦那。
今日はちょっと、悪いだけですよ。ほんの少しね。」
どぎまぎと辿々しく、震えた口ぶりにもはや動揺を隠す余裕はなかった。
椅子に座る男は「知っている」と嘆く口ぶりで、ピンと指をまっすぐに立てた。
指先はまっすぐに右端から左端へとなぞる様に滑らせた。
「1と4だ。
今日はその二人を購入するとしよう。」
薄いカーテンの先には、5人の女性の姿があった。
十人十色と言える様に、肌の色から目の色、年齢に種族までも様々。共通点があるとすれば、誰も容姿端麗ではあるが、一人一人の首に数珠繋がりの鎖と鉄枷が付けられていた。
その中から男が選んだのは、肌白く耳の尖った妖精人(エルフ)と青い瞳を持つ人間だった。
「あ、あぁありがとうございます!
すぐにご用意致します!」
感極まり店主は深々と頭を振り下ろす。選ばれた少女二人もただ黙って一礼をした。
しかし、その瞳には光はなくこの先に待つであろう事を悟り、張り付いた笑顔のまま虚ろな瞳を向けるだけであった。
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