16
「やれっと…。」
男は少女を背負い、教会へと連れ帰った。
長椅子へと寝かせる前にクモの巣を払い除け、そっと目を覚まさない少女を寝かせた。
巻いた角を含めても、長椅子の全長よりも小さい少女。小さく呼吸をする少女に男は大きく息を吐いて、多少の安堵を見せた。
しかし、その身体は酷く冷たかった。まだ暑いと言えど、川に長く浸かっていたのだろうか、幼い身体はすっかり冷えきっていた。
「しかし…、竜人(ドラゴニュート)か。」
思った以上に人に近い。
頭の左右に生えている巻き角以外、人と言われても遜色はなった。幼いから、まだ竜人擬きと言う状態なのだろうか。
一見しただけでの憶測を立てつつ、男はタオルやらブランケットなどを持ちより、少女の身体を丁寧に拭く。至るとこに穴の空いた麻の服も脱がせ、丁重に陶器を拭くように優しく汚れを落としていった。
(…腰の辺りに柔らかいが鱗がある…。足先も人のそれとは少し違う…。
尾てい骨が本来よりも少し上にあるし大きい。浮き出ている感覚も…。)
拭きながら身体中をくまなく見て行くことが出来た。初めて見る竜人の身体だったが、徐々にどういう構造なのかが判明し始めてきた。
憶測の通り、幼い事もあり身体が出来ていない様だ。まだ竜人に成り始めてたばかりなのだろう。
「発色が良くなってきたな。」
ある程度、水気を拭いてブランケットを身体に巻き付けておいた。紫がかっていた唇も薄いピンク色へ、顔も心なしか幼い印象のある赤い色へとなっていった。
「この分なら、もうしばらく待てば起き上がるかね…。」
命の心配はもう無いっと、ホッと胸を撫で下ろした時、同時に腹の音が低く唸る。考えても見れば、昨晩もろくに食べていなかった。
「やれやれ…。とんだ朝だよ。」
男はまだ冷たい少女の手を一度握り、そっとその場を離れた。
(何にしても、目が覚めたら村に送るとしよう。
ここじゃ不憫だし、何よりまだ親元に居た方が…。
いや、返せるのか?
あの角だから捨てられたって可能性もあるな…。
そもそも、親の人種は?村には居ないよな。
蜥蜴人(リザード)や竜人なんて。)
男は一人、ブツブツと独り言を呟きつつ、食料庫へ。
物事にふけると夢中になる癖があるのか、長椅子をかわしてこそいるが、多少足をぶつけて進んでいた。しかし、気にも止めず、そのまま蹴り飛ばす勢いで足を踏み抜く。掃除をしようっと心に決めていた男であったが、自身の行動で荒れた礼拝堂の様子をより一層、その姿を朽ちさせていっていた。
「…よし、落ち着け。落ち着け。お互いにだ。
起きるのはわかってたんだからよ。」
片手には飲み水ともう片手に干し肉を2切れぶら下げて、男は礼拝堂へと戻ってきていた。自分で蹴り飛ばして四散させた長椅子を見ては、散らかっているなっとまるで他人事の様に見ながら、少女の元へと近づいて行った。
そこには確かに少女が居た。
男の予想としては、起き上がりブランケットを肩まですっぽりと覆い被り、足を折り畳み膝を抱えて振るえている少女の姿が目に写るものだと思っていた。
先ほども憶測を立て正解に近い結果を得られていたが為に、今度の予測も当たるものと信じて疑っていなかった。
故に座り振るえる少女に飲み水を与えるつもりであったのだが…。
「ぐるるぅ…ぅうぅ…!」
低く唸る。動物の威嚇の様に。歯を剥き出しにして、虚勢を張っている。いつでも襲えるとでも言うかの様に、長椅子の座面の上で両手を座面に下ろし爪を立て、尻を大きく突き上げていた。
犬や猫が狩りの時や威嚇の時に体制に酷似していた。
そして、当然の如くブランケットは身体から剥がれ落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます