23

 しばらくして、 両手に抱えた風呂敷を手にして家主がまた戻ってきた。

 「とりあえず」を強調しながら、少女に一般知識を教えていくと伝えた。

「そうかぃ、そうかい!

面倒を見ることにしたのか!」

 大口を開け大声で喜ぶその姿は、歴戦の戦士にも見紛うものがあった。

 一方、少女はと言うと、その咆哮が響く前に家主が一目見えた瞬間に飛び跳ねながら礼拝堂の奥へと一目散に逃げていっていた。

「どうでも良いけど、随分と嫌われたな。」

「んー、撫でまわすのがそんなに嫌だったかね?」

 疑問に思っている家主に対して、「脳震盪し掛ける位に撫でまわすのが悪い」っと言いかけそうになる口をぐっと塞いだ。

 咳払いを一つし、話題を変える様に手に持っていた荷物に視線を回した。

「ところで、それは?

たわんでいるのを見るに、布かなにかの様だが…。」

「おぉ、服だよ。服。」

 床に広げた風呂敷の中からは、少々古い衣服が無造作に丸められて入っていた。

 家主は一つ手に取って見せてくれた。

「一番下の娘が着れなくなった服だ。

あんな格好、いつまでもさせるもんじゃないよ。」

 なるほどと見せてくれたスカート付きの服を眺めてみる。

 腕白な獣人の子供が着用していた服。ほつれややぶれを補修した切り布で塞がれている箇所がいくつか見つかるが、まだまだ現役で着られそうだった。

 だた、一か所だけ穴を塞いでいない場所があった。

「あの子には尻尾はないぞ。」

 家主は黒い毛並みのコボルト種。当然とその身体からは細長い尻尾が伸びていた。

 もちろん、子供たちにも同様に尻尾がある。

 その為だろう、尻尾用にと開けられた穴がすべての服に開いていた。

「竜人だったろ?

いずれは尻尾が生えてくるんじゃないか?」

「種族によるだろうが、とりあえず今は尻が丸見えになる。

持ってきてくれてありがたいのだが、塞いでくれないか。」

「うぅむ、そうだな。少し待ってな。

道具を取ってくるよ。」

 少々面倒そうな表情を浮かべ、出口まで反転して行く。だが、家主は不意に振り返り、爪の長い指を一本立てた。

「そうそう、さっき撫でた時にも思ったけど、あの子臭いわよ。

体を洗ってあげたら?」

「…検討しておくよ。」

 目を離しつつ答えると、いたずらにケタケタと家主は笑いながら教会を後にした。

 出ていく姿を眺めつつも、さてこれからどうするか、悩むところだ。

(あのドブ臭い野生児を洗わないといけないとなると…。)

 ブツブツと独り言を呟き、あの少女の姿を探した。

 先ほどまでは2階へと繋がる階段付近にいた気がするが、目くばせてみたがそこにからはすでに消えていた。

「また探す羽目になるのか…。」

 2階にでも逃げたとみるべきか。

 これからあの子の体を洗ってやらなくてはならないなどの思うと、急に足取りが重くなった。

 あの二巻きの角に突き刺されないか、不安でしょうがないな。

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