12
気付けば、妖精人は蒼い瞳の奴隷からも離れ、白い檻に飛び付き膝を折り、鉄格子から中を見やり、ホッと胸を撫で下ろしていた。
無事である。その事にとかく安堵していた。
「あとは…、檻から出すだけ…!」
すぐに扉の鉄格子を見渡す。
落下の衝撃からか、歪みこそしていたが開かない頑強な鉄格子の扉。
簡単には開ける事は出来ないとすぐに悟るが、近くに転がっていた手の平には収まりきらない石を掴み取る。弓形に大きく身体をそらして反動をつけ、鍵穴目掛けて石を叩きつけた。
「…お、お願い。力を貸して…。
石で、この扉の鍵を…、叩き壊す…からっ!」
左手で檻を押さえつつ身体を支え、右手で何度も繰り返し石を振り下ろす。
一発、一打事に手の平は赤く、石も赤く染まる。
「…ごめんなさい…」
その声を聞いたのは、石と鉄がぶつかり合い、弾けた音が響いた合間に聞こえてきた。
「私はもう限界よ…!
探すまでは、ここまでは協力してあげたわ!
でも、もう……!」
妖精人には彼女が次に言う言葉がもう頭に過っていた。
あぁっと落胆した。
だが…、これは仕方の無い事だ。そもそも、逃げて貰いたいとも先程願ったばかりでもあった。
もう十分、手伝って貰ったのだと、諦めもついた。
「付き合いきれないわ…!」
身を翻し走り出す。
妖精人への一瞥もくれず、草木を掻き分けながら、常闇の中へ。
振り返らずとも、彼女は暗い森の奥へと走り抜けたのだと、妖精人は見ずとも知り得ていた。
ただ、少しだけ手を止め、蒼い瞳の女性が無事に森を抜けられる事を祈り、今一度渾身の力を込めて石を振り下ろした。
「大丈夫…だからね…。
今…、助ける…から…!」
泣き入りそうな声を掛けながら石を振るい、幾度も振り下ろす。石は次第に小さく欠けていき、そして割れてしまった。
血まみれになった手の平を一瞥するも、すぐに近くに転がる石を見つけ、振り下ろす。
衝撃の合間に聞こえる、足音が先程よりも近付いていた。声も近く感じる。
しかし、この音に気が付いて用心している様子がある。警戒しているのか、足音の間隔が少しだけ狭まってきている。ゆっくりと近付いてきている様だ。
「お願い…っ!開い…って…!」
彼女は願いながら、今までを思い返していた。
人間に里を焼かれ、親と離れ、村に町にと流れ流れ…。
盗みをした、生きる為に。
暴行に及んだ事もある、生き残る為に。
そして、捕まり、従った。
生きる。生き残りたかった。
どんなに汚名を着せられ様とも、人としての尊厳を踏みにじられようとも。
ただ、生き延びて、両親と会いたかった。
「…願いも命も、もう捨てる…。
でも、この子は…。」
石は砕けた。
地べたを手探りで探し、今一つまた見つけた。
手の平には収まらない、両手で持ってやっと持ち上がる、白い石だ。
「今、ここで消える…。命じゃない…!」
両手で持ち直し、頭の上から弓形に身体をしならせて、全身の力を持って白い石を振り下ろす。
一度、二度…。
振り下ろす手は、持つ白い石は赤く染まる。
他の石と同じように砕ける白い石だが、まだ手に収まっている。
続け、三度、四度…。
「開いて…!」
ただ一心に振りかざし、片手に収まるほどに小さくなれど、石を手放さず振り下ろした。
「…お願い…!」
殴り付ける様に、振りかざした。
力などもうすでに潰えている。石で何度叩き壊そうとしても開く事は決してないとさえ思えていた。
それは妖精人にも頭に過る程には考えていた。
…だが、信じていた。この扉が破れることを。
そして、この子が一心に、ひたすら野を山を走り回れる「自由」を手にいれられる事を信じていた。
「はぁ…はぁ…。」
息を荒く、呼吸は乱れながらにその瞬間は訪れた。
想いは通じた。
硬く閉ざされた扉が開く事で、願い信じ続けた想いは、今叶えられた。
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