第36話 反旗を翻して



 翌日、一晩体を休めた後ステラ達は王都へ向かって出発した。


 勇者の剣を回収したら勇者になりました。


 王宮へはそう報告するしかない。

 下手に誤魔化してばれると、その時が恐ろしいからだ。(ちなみに勇者の剣は鞘いらずでどこかの異次元に勝手に収納されてるらしい)

 ただ、これでステラの部隊の価値が上がり、今後自分達に無茶な任務が回ってくることは少なくなるだろうという、そういう希望が持てた事は嬉しかった。


「ねぇ、昨日誰か私の部屋に入ってきてないわよね」

「えっ、ステラさんの部屋にですか?」

「そんな命知らずな事をする人間はうちの隊にはいないと思うんだが」


 それどういう意味なのかしら。

 アリアやクレウスが言葉を返せば、仲間達が同意するように一斉に頷きあう。


「まあ、気のせいならそれでいいのだけど」


 一日前とは違い、そんな余裕のあるやり取りをしながら、今後の事を部下達と話しあったりなどして王都へ馬車を走らせる。


 だが、そんなステラ達を、いきなり周囲から出てきた兵士達が囲んで進路を塞いだ。

 いつかの出来事を思いだして戦慄が走るが、今回はそういう出来事ではなかった。


「久しぶりだね、ステラちゃん」

「いつかの件は情けないところをお見せしてしまいましたね」


 ニオと再会し、生死不明となっていたエル……ではなくエルランド王子と引き合わされたのだ。





 止めた馬車の前でステラ達は話をする。部下達も一緒に各々が散らばって軽い食事をとっている。はたからみたら休憩をとっている風にしか見えないだろう。その談笑の中にまさか元王様がいるとは誰も思うまい。だがいくら装っているとはいえ、恐れ多いらしく誰も彼に近寄ろうとしてないのがよく見れば分かった。


「というわけでいままで、エル様と行動してたんだ。正式な任命は受けてないけど、ニオは護衛役だからね」


 その中で近くにいるニオが飲み物の入ったコップに、砂糖を入れてかき混ぜてから渡す。


「はい、エル様」

「ありがとうございます、ニオ」

「苦い飲み物もいい加減なれてほしいよ」

「ごめんなさい。でもどうしても飲みづらくて」


 護衛役というよりはお世話係といった印象が近いかもしれないが。


「驚いたわ、ニオって王子様の護衛だったのね」

「まあね。でもお城では候補って感じだったし。ちゃんとなりたかったからステラちゃんみたいに学校に入って修行してたんだ」


 再会して判明する意外な(……よくよく思い返せば、そうでもないような)事実に話が弾む。

 このままここ最近起こった出来事をもっと話したかったのだが、そうも言ってられない事情が彼女等にはあるようだった。


「私たちの目的は今の王様を討ってエル様の王位を取り戻すことだよ」


 ニオは顔を見せた目的をそう話した。

 それについてはエルランド本人からも事情が話される。


「あの方がちゃんと政治をして民の事を考えてくれていのなら、私は退いても構わなかった。けれど、彼は私腹を肥やすばかりで、民の事を考えようともしていない。このまま見ていることなどできません。どうか力を貸してください」

「エルランド様、協力したいのはやまやまですけど、私には人質が……」


 現王の暴君ぶりはステラも知っていた。何とかしてやりたいとも思っていたが、自分には気がかりなことがある。

 懸案事項をステラが口に出せば、分かっていたとばかりにエルランド王子は頷く。


「大丈夫です。その人達のもとには信用できる者達を送りましたから。何かあった時は必ず守って下さるはずです。いいえ必ず守りきるでしょう」


 彼はこちらが置かれている事情を把握しているようだった。

 もともと、ずっと前から声をかけるつもりでいたのかもしれない。


「ですけど……」


 不安は尽きない。

 自分がエルランドたちに組することで家族を要らぬ危険に合わせてしまうかもしれないのだ。

 いくら強い人間が傍にいて安全が保証されようとも、納得できるかどうかは別だった。


 ステラが戦うことによって、その人達が傷つくかもしれないと思うと怖かった。


「ステラちゃん、ツェルト君からの伝言があるんだけど」

「ツェルト? もしかして彼もあなた達に協力しているの?」

「え、そうだけど。王宮の事情とかをリートって人と一緒に色々教えてくれてたんだけど……、知らなかったの?」

「そうだったの……」


 話てくれなかった寂しさはあるが、もしかしたら変わってしまったかもしれないと、そう思っていただけに嬉しかった。

 同時に夜に見た夢のことを思いだしが、まさか関係があるわけはないだろうと思いなおす。


「じゃあ、言うね。えーと、確か……、『俺の鍛えた弟子を信じとけ』だってさ。後『いつまでも守られてばかりでいられるほどお前の弟は弱くないよ』とかも言ってたかな」

「ツェルト……」


 ステラが悩むことを見越していたようだ。

 そんなに会話した覚えはないのに、どんな口調でどんな風に喋ったのかステラには分かってしまう。


「分かりました、協力させてもらいます。私の家族は大丈夫なんですね」

「ええ、信じてください。私を、とは言いません。私を主として定めた、ニオの目を」


 ステラは仲間を振り返って尋ねる。


「という事にしたのだけど、あなた達は……」


 部隊長とはいえ判断を強制することはしたくない。

 否というのなら、引きとめまいと思っていたのだが。


「何を今更。協力するよ僕達は」

「そうですよ、ステラさん。今の王様は私たちも許せないって思ってましたから」


 クレウスとアリアの賛成の言葉をきっかけに、仲間達も同意の言葉を返してくれた。


「そうだ、いっちょやってやろうぜ」「俺達も不満だったんだよ」「エルランド様のほうがいいに決まってるしな」


 彼らにも彼らなりに戦う理由はがあり、覚悟があるのだろう。

 だがそうは思ってても、ステラは言わずにはいられなかった。


「みんな……、ありがとう。今までも、これからも」


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