第37話 傍にいた証



 ニオやエルランド王子との話を済ませた後、ステラ達は王宮に正々堂々と戻った。

 上官に会った時は死人でも見るような顔をされたが、勇者の剣を回収できた事を話したらあっさり態度を変えて歓迎するようになった。その様を見てステラは、あまりの変わり身の早さに簿少しばかり呆然としてしまったぐらいだ。


 わざとらしい賞賛を浴び、休憩をとるように言われた後、ステラは自室へ戻って鉛のように重たい体を休めた。

 ニオ達と計画した作戦の決行は一週間後。

 王宮の内部の事なんて、今まで進んで知ろうと思わなかったが、それでは駄目だろう。


 その日までに出来るだけ内部の事を自分なりに知ろうとステラは思った。





 そんな考えのもと、ステラは普段あまり行かないような場所に足を向け、王宮敷地内にある教会に辿り着く。


 その入口には、こんな場所には似つかわしくない意外な人物が立っていた。

 いつもなら彼の姿を見れば、心臓を掴まれたような気分になるはずなのに、今はぜんぜんそんな事にはならない。


「ツェルト……」

「ステラか。どうしてここに」

「ちょっと、散歩に」


 そういえば、ニオからツェルトが協力者だということは聞いたけど、ツェルトはステラが協力する事を知っているのだろうか。


「あなたはその、ニオ達のことは……」

「そうか、会ったんだな。全然変わらなかっただろ」

「ええ、そうね……びっくりするくらい本当に。ツェルトも話したの?」

「それなりにな」


 こんな状況にいても変わらない友の言動を思い返して、ステラの気分は明るくなる。


「いつもみたいに呼ばないのか」

「いつもって?」

「いや、何でもない」


 首を傾げられるツェルトをしばらく見つめて後、ここに入って来た時に思った疑問を口にしていた。


「貴方はどうしてこんな所にいるの」

「こういう所がどんな場所か気になってな。教会ってただひたすら大人しくしてるイメージしかなかったし。だいたい考えた通りだったけど。綺麗な場所だよな」

「そうね」


 彼らしい言葉に苦笑。ステラは建物の中を見回して同意した。

 教会の中に差し込む光は柔らかく、ステンドグラスが優しく色を添えている。


「ねぇ、ずっと気になってたんだけど。貴方、どうやってフェイスのつくった夢の中に入ってきたの?」

「夢? ああ、あの時のか。あれは……なんていうか、入ったっていうより元から繋がってたから……だな」

「元から? どういう事?」

「あー……と。」


 言おうか言うまいか迷ったのち、ツェルトはゆっくりと口を開いた。


「……とある理由があって、俺とステラの精神……心は繋がった状態にある。ずっと昔にその原因となったあの時はそうするしかなかったし、それ以外はありえなかった、必要だからそうしたんだ。でも記憶があった状態でもその事をステラは覚えてなかった。だからずっと今まで言わなかったんだ」

「そう……。疑問なんだけど、……それって私は二回も記憶喪失になってるって事?」


 一回だと思っていたのが実は違っていたという話に聞こえて驚く。

 家族からもそんな話は聞いていないというのに。


「そうなるのか? あー、そう言う事は俺にはよく分かんないけど。でも、その時は結構小さかったから単に覚えてないってだけだと思うけどな」

「そう、そんなに昔から貴方と縁があったのね」


 聞いた話ではカルル村で人質にされて以来の付き合いらしいのだが、それよりも前に出会っていたとなると少し変な感じだ。

 ツェルトに関する記憶を失くしていなければ、この話の反応も少しは違っただろうかと思う。


「まあ、今のステラが気にするようなことじゃない」


 話はこれで終わりだと背中を見せる。去り際に軽く頭を撫でられて、言い表しようのない感情が込み上げてきた。彼はここに何をしにきたのか、柄にもなく何か祈り事でもしようと思ったのか、とかもっと他に聞きたいことはあったが……。


「何だろう」


 何か、いつもと違う……、とステラは思った。

 自らの頭のてっぺんに手を置いて考える。

 なつかしさと、そして別の何かがあった。

 ステラはその時、胸の内に込み上げてきたもの正体が分からず、どう扱っていいのか己の感情を持て余していた。

 悩みながらもステラはしばらく、ツェルトに撫でられた頭に手を置いたり髪をつまんでみたりしてみる。


「私はいつも誰かにこうしてもらっていた……?」


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